これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(33)ファミレス方式盲従に警鐘

1999.08.02 184号 20面

昭和30年代後半から40年代、アメリカに飲食業の未来像を求め数多くの経営者が渡米した。チェーンストア理論の権威、日本リティリングセンターの渥美先生は、それらの経営者に熱烈に語りかけた。「近代化しなければ、もうこれからは生き残れない。だから産業化だ、企業化だ、合理化だ、チェーンストア化だ!」と叫び続けた。

ともに海を渡った経営者たちは、見るもの聞くものが珍しく驚きの連続であった。やれマクドナルドだ、ケンタッキーだ、ダンキンドーナツだ、サンボスだ、デニーズだと…。日本にはない格好の良いお店を見て、従業員がイキイキ働いている姿にふれて、感動に酔いしれた。短い滞在時間を有効に使うため、朝からアメリカ風の洋食を食べまくった。

パンケーキ、ドーナツ、マフィンと慣れない食事を取りながら、「これが産業化されたメニューだ。チェーンストアのメニューだ。われわれのやっているような、水商売感覚の商売ではもうあかん! これからはハンバーガーのファストフードや、ファミリーレストランで外食産業化を推進しよう!」と心に誓った。

帰国するなり、早速外食産業化のための行動を起こした。それはアメリカ資本との提携であったり、アメリカで見てきたファミリーレストランのそっくりさんをつくることであった。

外資との提携では、夢破れたチェーンが数多く出た。ダンキンドーナツ、ウインチェル、カールスジュニア、サンボス、オレンジジュリアスなどなど、ほとんどわが国で知られなかったアメリカのメジャーが引き揚げていった。

しかし、少数ではあるがわが国にしっかりとその足場を築いたチェーンも存在している。外食産業化を成し遂げた現在の企業群(マクドナルド、ケンタッキー、ミスタードーナツ、デニーズ)である。しかし、今になって冷静に考えてみると、外食産業化の推進はまさに時を得た正しい行動ではあったが、そのメニューのほとんどが何で洋食なのか、ということである。

フライドチキンやドーナツやハンバーグというメニューでなければ、チェーン化ができなかったのだろうか。わが国独自のチェーンストア企業にも和食メニューは存在する。すし(かっぱ寿司・京樽)であり、牛丼(吉野家)であり、ちゃんこ鍋(江戸沢)、うどん・そば(グルメ杵屋)である。しかしそれぞれのチェーンの商品を食べ比べてみると、レベルの低い商品だらけであることに気づく。

産業化とは標準化であり単純化である。だれでもが調理しやすく、運営管理しやすくしすぎたために、それらの商品は大幅に力を落とした。

チェーンストア系のお店の、商品のレベルは貧弱である。それはこの連載でさんざん取り上げてきたし、お客のあいだには浸透している。ラーメンにしても、すしにしても、うどん・そばにしても、居酒屋メニューにしてもである。だから、非常に競争に弱い。一対一のバトル戦(隣同士)では、あれほど強い牛丼の吉野家が牛めしと定食の松屋に圧倒的に負けているのである。

バブル崩壊を経験したわが国も、さまざまな商品やいろいろなお店が豊富にあふれる成熟した社会になった。こうなってくると、今まで洋食中心の外食行動が何だかつまらなくなってくる。

アメリカの食べ物のつまらなさに気がつきだした。アメリカ人が好んで食べてきた、フライドチキンやドーナツやハンバーグというメニューは、「本当はあまりうまくない!」ということに気がついた(いや、それらのメニューも食べ方次第では本当はおいしいのだけれど、システムに乗っかった提供の仕方では、それらの本当のおいしさは引き出せないということなのだ)。だから平成元年ごろから、アメリカンフードが飽きられイタリアンブームが起こってくる。

アメリカではなくヨーロッパ、それもイタリアという、アングロサクソンの伝統と格式からやや離れ、自由な気風と文化を持つイタリア人の食事スタイルが受け入れられはじめたのだ。麺(パスタ)やピッツァやトマト味が、日本人に合うとか合わないとか、そういうことではない。何だか「人工的な味」のするアメリカンフードのつまらなさに気がついたというべきかもしれない。

ベルトコンベヤーで流れてくる、機械で自動的に作られたメニューにはもううんざりした。産業化の名のもとに忘れ去られてきた、料理の楽しみ、食事の楽しみを思い出したのだ。それは成熟した社会に、必然的に求められるライフスタイルである。

こうなると、和食・洋食・アジア料理など、それらの多様な食事形態をもっと豊かに楽しみたいと思うようになる。だから、ナイフとフォークでなくおはしで、いすとテーブルでなく掘りごたつ式の畳で、ドミグラスソースではなくお醤油やぽんずで食べたいのである。

どこに行っても同じようなチェーンストア経営のお店、いわゆるFF(ファストフード)、FR(ファミリーレストラン)の業態店ではなく、うまいラーメンやおすしやウナギや焼き肉といった街の有名店で、いわゆる業種店で食事をしたいというお客のニーズが強まっている。だからファミレスのすかいらーくやガストが苦戦し、焼き肉のようなお店が大繁盛するのである。

現在、大ブームが起こりつつある焼き肉料理は、決して安い料理ではない。普通客単価が一人当たり、二五〇〇円になる。だから焼き肉店は、安っぽいチェーンストアのやり方には、全くなじまない種類のお店である。

今の焼き肉店には、高級感やグルメ感は絶対必要である。回転ずしのアトムが手掛ける焼き肉のカルビ大将は、ちょっとエスニックな雰囲気でファミリーユース(家族利用)を狙った大繁盛店である。世田谷馬事公苑店は、月商三〇〇〇万円を超えているようである。

二〇年前、倒産の危機に追い込まれた千葉の赤門は、教条的なチェーンストア経営理論から脱却して立ち直り、現在一七店舗の大繁盛店を形づくっている。各店は今でも週末になると、一~二時間待ちは当たり前である。

焼き肉店の繁盛要素は、ちょっと高級ばかりではない。もう一つの大切な要素がある。それは、今東京都内で急激に支店を伸ばしている牛角(ぎゅうかく)に見られる。牛角は、大変サービスも良くおしゃれなお店であるが、お客のほとんどが二〇歳代の若い客層である。彼らからは、ちょっと高級な居酒屋という感覚で見られているのである。今年中に、都内で七〇店舗をオープンするといううわさもあるが、無理をせずに願いたいものである。

それもこれも、お客に支持されお店がもうかっているからできることでもある。「せっかくおいしいものを食べに行くんだから、どこにでもあるお店じゃつまらない!」というそのお客の来店動機こそ、今の時代の時流を的確にとらえた表現にほかならない。

ファミレスそっくりなやり方では、こうした本当の焼き肉ブームをキチンと支えきれないのではないかと危惧するのであるが、それは筆者の考えすぎであろうか。

(仮面ライター)

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