わかりやすいHACCP(10)増やさない<その2>調理済み料理の保存

1999.11.01 191号 20面

前回は細菌が繁殖する危険温度帯は五度C~六〇度Cの間で、この温度帯に食品を四時間以上おかないということで、冷蔵保管の重要性についてお話しました。今回は調理をした料理の保存ということを考えてみましょう。

調理済み料理の保存は二通りあります。学校給食や工場給食のように大量に作った料理を昼時まで保温して保管する場合と、翌日のためにカレーや煮物などを大量に作って冷蔵庫で保管する場合です。

調理というのは温度をかけて食材中に存在する食中毒菌などを殺菌または減菌処理することです。一〇〇度Cの温度で調理した場合でもすべての食中毒菌が死滅するわけではありません。食材が大きすぎたりした場合には中に隠れた食中毒菌が死滅しませんし、菌の種類によっては一〇〇度Cでは死滅しないものがあります。

そうすると調理後、その料理がだんだん冷めて危険温度帯の五度C~六〇度Cの温度になると生存していた食中毒菌が増殖をはじめます。この危険温度帯で四時間以上放置すると食中毒を発生するのに十分な量まで食中毒菌が増殖をするのです。

〈保温保管〉

食材は七五度C、一分間の加熱をするようになっていますが、その保温は六〇度C以上で二時間までが安全な保温時間です。中途半端な温度で保管しないで六〇度C以上か、冷却して五度C以下で保管するようにしましょう。保温する場合の温度は六〇度Cと申しましたが、その温度は保温庫や機器の設定温度ではなく、保温している食材の中心温度のことです。保管している場合には途中で温度が正しいかどうか、時々温度計で計測して確認しましょう。

シチュウや煮物などの液状のものは保温庫に保管していても時々かくはんして、温度が六〇度C以上に均一に保たれているようにしなくてはいけません。水分のない、肉や揚げ物などの場合には、保温庫内で温風や輻射熱が伝わるようにすき間を空けておく工夫が必要です。

〈冷蔵保管〉

調理済みのカレーやシチュウなどを翌日に使うので、大量に作り、すぐに冷蔵庫に保管し、翌日食中毒を発生させる例を多く見ます。カレーやシチュウなどはぐらぐら煮て完全に殺菌し直ちに冷蔵庫に保管しているのに食中毒が発生します。

保温保管の例で説明したように、一〇〇度C、一分間加熱しても死滅しない食中毒菌がいます。カレーやシチュウ、煮物で使う野菜には泥がついています。この泥にすんでいる食中毒菌でセレウス菌やウエルシュ菌という芽胞菌が存在します。この菌は酸素が嫌いで土の中に潜んでいます。ジャガ芋やニンジン、コメ、食肉類などに泥と一緒に混入します。一〇〇度Cに加熱しても芽胞という硬いよろいに包まれており死滅しません。しかし、温度が下がり六〇度C以下五度C以上になると芽を出して、積極的に繁殖を始めます。そして、翌日のお昼ごろには食中毒を起こすのに十分な量に増殖します。

もう一度温度を七五度Cまで上げて減菌をすれば安全なのですが、完全に調理したからと思って、十分な温度まで再加熱しないと、食中毒を発生するのです。

また、冷蔵庫を過信してはいけません。冷蔵庫というものは五度Cから一度Cの間のものをその温度で保つ能力しか持っていないということを理解しましょう。七五度Cまで加熱された大量のシチュウなどを寸胴のまま冷蔵庫に入れても冷却はできないのです。かえって細菌がちょうど繁殖しやすい温度に保つことになってしまう危険があります。

温度を七五度Cまで十分に加熱し、味がしみこんだ状態から、寸胴をシンクなどに冷水を張り、その中に寸胴をつけかくはんしながら流水で急速に温度を一〇度C以下まで冷却し、それから冷蔵庫に入れることが必要です。夏場などはアラ熱をとった寸胴をさらに氷を入れたシンクで十分冷却をしなくてはいけません。カレーやシチュウ、煮物を常時大量に調理し保冷する場合には、特殊な冷却器を購入した方が安全です。大型の冷却漕と冷却器をセットにした機器や、冷却能力を強化したブラストチラーという機器を使用すると良いでしょう。

もちろん冷却漕を使用する場合も寸胴中の食品をかくはんしなくてはいけないし、ブラストチラーという空冷の機器もバットにシチュウを五センチメートル以上の深さにしては冷却できないということにも注意を払わなくてはいけません。機械任せでなく、必ず、温度計を差し込んで温度をチェックすることが安全のためには必要不可欠です。

お弁当屋さんも同じです。ご飯とおかずを同じ器に盛ることはご飯の温度で細菌が繁殖する危険があります。炊きたてのご飯は急速に冷却し、盛りつけなくてはいけません。コンビニなどではお弁当を製造後三六時間以上も販売しているので、それを見て、お弁当は保存期間が長くて安心だと思いがちですが、コンビニのお弁当は作り方が全く違います。

コンビニのお弁当は炊きたてのご飯とおかずを急速冷却後、盛りつけをして、それから冷蔵状態で流通します。さらに念を入れ、特殊な添加物でペーハーを酸性に保ち細菌が繁殖しにくくなる工夫をしています。外食店とは異なる特殊な設備や手法を使い、細菌の繁殖を極力抑えるシステムを取り入れているのです。そんな工夫をしていない普通のお弁当は十分な注意が必要なのだということを理解しましょう。

(経営コンサルタント/立教大学社会学部非常勤講師・王利彰)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら