カナダ特集・シェフ座談会「何よりもクリーンがおいしい」
◆ かみや・まさたか=日本料理「乃木坂・神谷」(東京都港区赤坂八‐一一‐一九、エクレール乃木坂一階、03・3497・0489)
昭和40年名古屋「千歳楼」、京都「もりぐち」、東京「柿伝」、名古屋「葵荘」などを経て平成元年神宮前に「青山穂積」を共同出店する。4年に新宿「そば処・竹がみ」、乃木坂「神谷」を出店、10年には新宿「竹がみ」を赤坂に移転、現在に至る。『お通しと前菜』『刺身』『煮物』などの著作あり。
◆パメラ・ヘイ氏 カナダ大使館商務官(東京都港区赤坂七‐三‐三八、03・5412・6200)
日本に赴任し約一年半。流ちょうな日本語で、ビジネスばかりでなく日本での生活をエンジョイしている。週末には和太鼓をたたき、すでにコンサート演奏もするほどに。和食がお気に入り。
◆ やまだ・ひろみ=イタリア料理「リストランテ・ヒロ」オーナーシェフ(東京都港区南青山五‐五‐二五、T・PLACE B1F、03・3486・5561)
昭和28年東京・浅草生まれ。幼少のころから料理づくりを楽しむ。料理の世界は新潟の「イタリア軒」が振り出し。上京し「ハングリータイガー」「高野ワールドレストラン」などを経てイタリアで五年間修業。帰国後は「バスタパスタ」初代料理長を務めた後、「ヴィノッキオ」の主となるが、やむなく閉店。平成7年再度の挑戦で「リストランテ・ヒロ」をオープン、現在に至る。
◆ ながさか・まつお=中国料理「麻布長江」オーナーシェフ(東京都港区西麻布一‐一三‐一四、03・3796・7835)
昭和24年愛知県豊田市生まれ。都ホテル「近鉄四川飯店」、御殿場市「名鉄菜館」で修業後、二二歳で高松グランドホテル「鳳凰」の料理長に就任。三三歳で独立し、高松市の「中国菜館・長江」「シーサイドチャイナ長江」など精力的に出店。三年前に「麻布長江」を引っ提げて東京進出、独自の中国料理を展開する。
「カナダ大自然の恵み」三ヵ年キャンペーンも終わり、カナダ食材の認知度はかなりアップしたかに見える。昨年末、新しい食材の出合いを求め料理人の会「テイスト・オブ・ファイブ」がカナダに飛び立った。未知の大地カナダは、イメージしたとおりのものであったのか、実際はどうだったのか、新しい食材に出合えたのか、また、どのように使いたいのかなど、カナダ大使館の商務官を交え、食材に絞り込んで質疑応答を試みた。(写真はいずれもカナダ観光局提供)
山田 カナダといえばはっきり言ってよく知らなかった。ただ漠然と広くてきれいな国というイメージはありましたが。
実際に行ってみて、自然は想像していたとおりでした。それと初めて知ったことですが、一つの国でありながら、全く異なるイギリス文化圏とフランス文化圏が歴然としていること、これは驚きでした。
神谷 私も同じです。カナダは、緑豊かな山々やどこまでも続く広大な草原、滔々(とうとう)と流れる川というクリーンなイメージをいだいていました。このイメージは裏切られなかった。
長坂 同じ広大な国でも、カナダは中国より整然としたところであろうと想像していました。実際にも大自然は素晴らしく、特に夜明けの太陽は感動的。今でも目に焼き付いています。
神谷 町を歩いていて人にぶつかることもなかった。逆に、当然賑わっていいはずのデパートの周りに人がいないのが心配だったけど(笑)。
ヘイ 皆さんもご存じのように、カナダの大自然は素晴らしいものがあります。また、この大自然はわれわれに多くのものをもたらしてくれています。
多岐にわたる農産物、水産物を産していますが、これらは政府の厳格な品質管理と衛生管理のもと高品質で安全性の高いものとして世界中に供給されています。
また、これら農産物のほか、国際的に高い評価を得ているのが加工食品です。たとえば、カナダワイン、メープルシロップ、ピザ、ジャム、チョコレート、ベーグル、飲料など、数多くの製品が輸出されていることも知っていただきたいところです。
ところでシェフの皆さんは、カナダの料理についてどう感じられましたか。
山田 広大な土地に異なる文化を合わせもつ国だから、一概においしい、まずいは言い切れないが、日本料理のレベルは素晴らしく低かった(笑)。
ただバンクーバーの中華料理のおいしさには感動しました。
食材では豚、鹿の肉がおいしかった。料理の仕方も、カナダではこんな風にするのかと感心したりもしました。 また、たまたま出合えたクランベリーの収穫風景。湿田に一面が真っ赤になっている光景は素晴らしいというより感動的。今でも頭に焼き付いています。
ヘイ クランベリーは、カナダやアメリカ東北部の沼沢地に自生するツル性の果実です。湿田で栽培され、暗赤色に近い赤色で、直径〇・六~一㎝の小球形で、果肉は硬くて酸味が強い。収穫は9月上旬~10月上旬と短く、感謝祭の七面鳥料理に欠かせないものです。
神谷 トロント、ナイヤガラと食べ歩きましたが、食文化の違いもあるでしょうが一皿に盛られる量の多さにびっくりしました(笑)。肉ではポークがおいしかった。鹿の肉はどうかなと半信半疑で食べたが、東側で食べたのはおいしいと思わなかった。ただバンクーバーで食べたのはおいしかった。東側とは味が全然違っていましたが。
長坂 カナダの料理は、保守的なものと革新的なものが混在していましたが、トロントでは、若い人は革新的でしたが、全体に古典的なもので生きていたように思います。
反対に西側は、躍動的革新的で、新しくしようという意欲がヒシヒシと伝わってきました。食材の可能性追求と料理を楽しもうという明るさもありました。
ヘイ 使ってみたい食材として何かありましたか。
神谷 自家製のメープルシロップをもらいましたが、素晴らしい味でした。さっぱりしていてコクがあり、色もきれいで甘みがきちんと切れている。
自分なりにソースにしてみたが、とても気に入りました。いつでも手に入るようだったら、すぐにでも使いたいと思っています。
山田 私は甘いものはあまり好みませんが、あれは良かった。カナダの人が、どのように料理しているか知りたいですね。
ヘイ 自然の産物ともいえるカナダのメープルシロップは、春になるとメープル(サトウカエデ)の木から樹液を集め、これを煮詰めて作ります。
添加物なしの自然甘味料は、高い栄養分だけでなく、糖尿病の人でも安心して食べられ、肉料理やパンケーキ、デザートなど、幅広く使えます。
神谷 メープルシロップのほか、気に入ったものに豚肉があります。これはぜひ使ってみたい。
ヘイ カナダポークは、大麦を飼料に育ち、トウモロコシ飼料に比べて高タンパク、脂肪含有率低く、きめが細かい特徴をもっています。
山田 カリブーやジャコウ牛も面白い。どちらかといえばジャコウ牛が使いやすいが。
神谷 カリブーのほうが良いと思うが。
長坂 カリブーはちょっと癖はあるがうまい。
山田 ロブスターもうまかったが、メニューにするには知られ過ぎているだけに新鮮味に欠けるきらいがあるが。
ヘイ ロブスターといっても、カナダ産のはちょっと違います。水温の低い大西洋岸で捕獲されるため、身がしっかり詰まっており、殻も硬い。
近年、管理と技術の向上により、年間を通して供給が可能となりました。
山田 そのほか野菜でびっくりしたのがビーツ。黄色いビーツを見かけましたが、ジャコウ牛のだしを使い、ほかの野菜と一緒に味をしみこませたらどうかと、メニューのイメージが湧いてきます。
神谷 BCのトマトもありましたが、あれは水耕でしょうか。
ヘイ そうです。大規模なグラスハウス内で、ハイテク農業設備と栽培ノウハウを駆使すると同時に、ハチによる自然交配、害虫駆除をする自然生態技術を利用した水耕栽培です。
今年の1月にはミッションが来日し、日本での評価はなかなか良かったようです。
皆さんはワイナリーへも行かれたかと思いますが、ワインはどうでしたか。
神谷 アイスワインは大変良かった。ただ甘いだけでなく、デザートワインとしても使えます。物語性もあるし、フェアなどの華としてもいけるとおもいます。
長坂 世界中から欲しいという問い合わせが殺到しているようですが、絶対量が少ないため非常に高価になっている。
山田 しかし、せっかく高いお金で買い、パーティーの華として出しても、お客さんからは、サンプルでもらったと思われる恐れがある(笑)。
神谷 知っている人は知っているが、まだまだアイスワインの知名度は低いですね。
ヘイ アイスワインもですが、意外に知られていないのは、カナダのワインです。一〇〇年の歴史があり、国際品評会でも数々のメダルを受賞、高い評価を受けています。
こうした評価も、各ワイナリーが結集しVQA CANADAシステムによる厳格な基準を設け、品質改良・維持を図っているからと自負しています。
山田 それにしてもオーガニックビーフの牧場は面白かったですね。
雄二頭に五〇頭ぐらいの雌牛が群れ、まさにハーレム状態だった(笑)。
群の雌牛は妊娠しないとすぐに肉に回され、出産しても終わったら、と殺される。それなら種牛になればと思うが、雄も用が済むと同じ運命。いずれにしても、あそこの牛たちは薄幸な運命にある(笑)。
カナダでは、ジャコウ牛、クランベリーなどいろいろな食材に出合えて楽しかった。供給さえあればすぐにでも使いたいが、どこへ行っていいのかわからない。
ヘイ 関連商品は、フーデックス会場のカナダブースで展示されており、輸入元、問屋、代理店などへお問い合わせくだされば解決できると思います。ぜひ立ち寄ってみてください。
長坂 カナダのイメージ、思い出は大きく膨らんだが、供給が大きなネック。これからの体制をどうとるかに期待したいですね。