この1品が客を呼ぶ:「西安刀削麺六本木店」麻辣麺

2001.07.16 232号 18面

日本のうどんのルーツともいわれ、文字どおり刀で削り落とすようにして作るという刀削麺は、中国の山西省や陜西省に古くから伝わる独特の麺だ。そんな刀削麺を使った麻辣麺(まーらーめん)は、唐辛子とサンショウの風味が楽しめ、一度食べれば病みつきになると評判が高い。西安出身の調理人が作る本場の味に迫ってみた。

水で練った小麦粉のかたまりを片手で包むように抱え、一方の手に持った独特の形の包丁でリズミカルに削り取っていく。それが煮えたぎるゆで釜にぱらぱらと落ちるさまは、中国の食文化の深淵をのぞくような感慨がある。

オーダーが入るたびに調理人がこの作業をするのだが、キッチンがガラス張りになっているため、客はそのパフォーマンスを眺めることができ、ライブ感が味わえる。ゆであがった麺は、さながら短いきしめんといったところだろうか。

「五人いる調理人はすべて西安から招き入れました。いずれも現地で一〇年以上の経験を持つ国家級のベテラン調理師です。あの独特の包丁も、それぞれ自分の手に合ったものを使用しているんですよ。料理は日本人向けにアレンジせず、なるべく本場の味を楽しんでいただきたいので、西安出身の調理人でないと、料理の表現が難しいんです」とは、(株)大秦の飲食事業本部で課長を務める小島達樹さん。

「西安刀削麺六本木店」は、神田や飯田橋などに七店舗を構える「刀削麺荘」でおなじみの大秦が、今年4月オープンした店。店内は、壁や窓ガラスに中国人の画家による墨絵や文字が大胆に描かれ、BGMは洋楽や日本のポップスにのせて中国の漫談を流すなど、中国の大衆食堂のような気安さとわい雑なイメージを演出する。

刀削麺を使用した料理はげん骨をのせたものやネギと煮込みチャーシューをのせたもの、精進風など七種類あるが、麺料理のオーダーの八割近くを占めるという圧倒的な人気を誇るのが「麻辣麺」(八〇〇円)だ。

四川から取り寄せた花サンショウをメーンのスパイスに、辛みのきいたひき肉とサヤインゲン、白ごま、そしてパクチー(香菜)をトッピングし、さらに唐辛子を加える。スープは鶏と豚のがらスープだが、量が少なく、麺をあえて食べるというイメージだ。

「西安では、食べた瞬間に辛いと感じるものはおいしくない、といわれています。はしを進めていくうちに徐々に辛く感じるものがおいしいものとされ、好まれます。この麻辣麺は濃厚でやや塩辛く、徐々に花サンショウとパクチーの独特の香味が舌にきいてくるなど、日本人にとってはなじみのない味なので、初めて口にされたお客さまは驚いたような顔をされますが、リピートされる方が増えています」

麺料理のほか、前菜や一品料理、点心などメニュー数は一二〇品にものぼる。この独特の花サンショウは麻辣麺に限らず、餃子や小龍包などの点心にも使用されている。独特のスパイシーな風味が生きているため、たれをつけなくても十分に満足できる仕上がりだ。

特に餃子類は、女性のグループでも一人一皿はオーダーするという人気メニュー。なかでも「大エビ丸ごと焼きギョーザ」は、クワイとエビの独特の歯ごたえが楽しめる逸品で、皮は縫い込むようにエビを丸ごと包んだ、技術と手間を要する芸術品ともいえるもの。これも西安出身の調理人ならではの技だ。

「広東、北京、上海、四川といった中国四大料理に比べると、西安料理はまだまだなじみがありません。ですから、広く知ってもらうという意味でも今後もできるだけ店舗数を増やしていく予定です」

○記者席からのコメント

見た目は坦々麺のような「麻辣麺」だが、実際に口にしてみると、まったくの別もの。麺はきしめんのような平打ちタイプで、コシが強く、心地よい歯ごたえが特徴。

そしてメーンの花サンショウ、実で仕入れて店内でひくというだけあって、新鮮そのもの。唐辛子の辛みとサンショウ独特のピリリとした刺激が舌に広がり、香菜の香りも重なって、かつてない味わいが楽しめた。

後から辛さを感じるというだけあって、食べはじめてしばらくすると汗が出てくる。汗だくになって食べている人が多いというのも納得である。

○こだわりの食材・ズーラン

さまざまなスパイスを使用しているが、初めて日本への輸入に成功したのがこの「ズーラン」だ。シルクロードから来る砂漠の木の実のスパイスで、中国色よりも中近東などのイスラム圏の香りが強い。シルクロードの中国側の入り口が、今の西安である長安なので、古くから西安には存在したとされ、麺の中に入れるなど、ポピュラーな香辛料だ。ここでは「牛肉のズーラン炒め」というメニューに使用している。輸入に関しては前例がなかったため、税関をパスするまで二ヵ月もかかったという苦心の末のスパイスだ。

◆「西安刀削麺六本木店」=東京都港区六本木六‐八‐一七、クリエイトJビル二階、03・5785・0828/坪数席数=七〇坪一二〇席/営業時間=午前11時30分~午後2時、5時30分~翌午前3時、日・祝定休

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