シェフと60分:「ポンテベッキオ」オーナーシェフ・山根大助氏
「昨日、イタリアから戻ったところ」という、山根大助シェフ。とにかく、エネルギッシュで多忙な人だ。
今回の旅の目的は、イタリア最大のワインイベント「ビニ・イタリー」への参加。海外五ヵ国のベスト・イタリアンレストランに贈られる「アレーナ・ディ・ベローナ賞」に選ばれたため、授賞式への出席と、正式晩餐会での調理を依頼されたという。同賞は、ワイナリーへのアンケート結果を基に決定されるもの。条件は、イタリアンワインをよく理解し、料理とのコンビネーションを考えて的確にサービスしていること。イタリア料理をいかによくこなし、よりよいものに発展させているかが問われるという。
「ポンテベッキオ」は、関西のイタリアンレストランの中でも、一目置かれる高級店。ワインの保有数も、一万本とケタ外れだ。「『イタリアはこうだから』というような固定観念に縛られたくない。人のマネはしたくない」という考えから作り出される料理は、既存のイタリアンというイメージをはるかに超えたもののように思える。
「イタリアの料理をコピーしても、結局はコピーにすぎない。自分はイタリア人ではないのだから、本能的に求める味覚の奥深いところではどうしようもない部分もあります。日本でイタリア料理をやってきたというだけで、イタリア料理をすべて知っていますというのはおこがましい。それよりも、自分がおいしいと思う料理を作るべきなんです。最終的に、イタリア人的な見方で客観視した時に、おいしいイタリア料理であればいい」
まず、よい素材を選ぶこと。そして、その素材に対して一番素直な作り方をしているか、うまみを生かすやり方であるかが大事だという。食材には、ハモやフグも使うし、シーズンにはトリュフも使う。よい素材を取り入れることに、和・洋のこだわりはない。
一昨年には、ビルの三〇階に「モード・ディ・ポンテベッキオ」を出店。「あの、価格もレベルも高い、ポンテベッキオの姉妹店」ということで話題になった。天井が高く広い空間に一一〇席。内装や什器にもこだわった、おしゃれな雰囲気のレストランが出現したのだ。
「本店は一定の評価をずっと得てきたが、四〇席ではそれ以上のことはできない。限られた客のための、排他的な店になってしまっては、やりたいことが十分に表現できないと感じていました。夜の客単価は、本店は二万円弱ですが、こちらは九三〇〇円くらい。本店に行ってみたくても敷居が高いと思っていた、潜在的なお客さんを満足させたかった。ちょっと高いかもしれないが、だれでも来れるような価格設定にしました」
料理の素材は本店と同じだが、価格を抑えるために、コースの皿数を減らして提供している。店全体の雰囲気を楽しみながら食事する、分かりやすい店を目指したというモード・ディ・ポンテベッキオは、今では多い日で三〇〇人の利用がある人気店に。
「料理から内装まで全部を分析し、絶対負けないやり方を考えた」という、客のニーズをつかむ冷静な判断の勝利といえるだろう。
そして、この4月には、大阪・梅田の阪急百貨店内に「メンサ ポンテベッキオ」を開店。「メンサとは、食堂という意味。シンプルな料理をバンバン作れる店にしたかった」。客席は一二〇席、厨房は六〇坪以上ある。昼は二〇〇〇円、夜は三五〇〇円のコースと、リーズナブルだ。
メニューの目玉は、肉類などの炭火焼き。厨房設備店と一緒に開発したという、回転式のロースターで、じっくりと焼き上げる。また同店専用のパスタも、共同開発。ゆで上がりの早さと味にこだわり、手打ち麺を採用している。「気軽に利用できる食堂だからこそ、毎日食べてだんだん健康になる料理を作らなければ。日常的に食べるものは大事だということを、実現してみせたい」。サラダや蒸し料理などで、野菜もたっぷりと登場する。
カラーの違う二店舗を展開しているが、「あくまでも料理の基本は本店にある」ときっぱり。「本店は、信用を落とさないで、確実なポジションを築くために努力するべき店。クオリティーを守ることで、ほかの店も繁盛する」。一番大事なことは、視野を広く持って、常に進む方向を見すえること。感覚を錆びつかさない新鮮さで、ほかよりも先行している状態を保つこと。熱く語る口調からは、関西イタリアンのリーダーとしての自負がかいま見られるようだ。
文・中尾みち代
・所在地/大阪市北区天満一‐五‐二、トリシマオフィスワンビル1F
・電話/06・6356・3477
◆プロフィル
1961年大阪府生まれ。調理師学校在学時は、フランス料理全盛期。授業もほとんどがフランス料理だったが、たまにあったイタリア料理の授業で、日本人として食べやすい料理であると感じる。神戸「ドンナロイヤ」で3年半修業後、イタリアへ渡る。ミラノの三ツ星レストラン「マルケージ」などで修業後、帰国。1986年大阪・本町に「ポンテベッキオ」を開店。1996年現在地に移転する。2000年「モード・ディ・ポンテベッキオ」を開店。2002年4月、大阪・梅田の阪急百貨店内に「メンサ ポンテベッキオ」を開店。NHK「きょうの料理」ほか、テレビの料理番組でも活躍中。著書に『ポンテベッキオ山根シェフのパスタ教室』(千趣会)、『パスタ・グラッツェ!』(共著・扶桑社)など。
◆私の愛用食材 バリアーニ エクストラオリーブオイル
イタリア料理では、オリーブオイルは欠かせない。「バリアーニ エクストラ オリーブオイル」は、アメリカ・カリフォルニア製のもの。非常に品質のよい高級品だ。
オイルの抽出には、オリーブを石臼でゆっくりとつぶしていくとか。イタリアの昔ながらの製法であり、摩擦熱を出さないことで酸化が防げるという。
色はグリーンでフレッシュ感が強く、草のようなにおいがほのかに香る。味は辛くて苦いが、使い道によりおもしろいアクセントになる。
山根シェフの場合は、生の肉料理としてカルパッチョを作る時などの仕上げに、わざとこの辛いオイルを使うという。また、魚料理にポイントをつけたい時にも利用する。
◆問い合わせ先=日本ホールフーズ(株)(東京都品川区東五反田五‐四‐一四、電話03・5283・0333)