中華懐石繁盛店:「京シノワ御蔵」表参道店
著名ブランドショップが軒を連ねるエスキス表参道の五階に立地する「京シノワ御蔵表参道店」。京都を拠点に「かつくら」「串くら」などを展開する(株)フクナガ・ティアンドフードが、同じ京都の料亭「菊乃井」の村田吉弘店主と組んで東京進出した「京の田舎料理・御蔵」の中華バージョンとして、昨年9月にオープンした。
京食材と中華のコラボレーションは斬新に映る。しかし、料理長の武石泰行氏は、
「京料理のルーツに普茶料理があります。『あんかけ』『揚げだし』『煮浸し』は普茶料理の技法を京料理に応用したものです。だから中華と和食は自然に味が調和します」と言う。
また、京野菜と中華料理の相性については、中国野菜との類似点をポイントに挙げる。
「自然栽培の中国野菜は味がしっかりしています。日本では京野菜がいちばん野趣味があって中華料理の技法に負けない野菜だと思います。ただし、時期があるのでメニューを考えるのに苦労します。京シノワというからにはなるべく京都の食材を使いたいものです」と言う。
現在のスタイルに達するまでに、さまざまな試行錯誤を繰り返した。
「もともと中華料理の大皿は、料理が冷めないように提供するための手段なのです。それを少量小皿で提供すると、冷めたり味のダイナミックさに欠けてしまう。最初は懐石に意識過剰で悩みましたが、最近は無理せず、テーブルやグループごとに大皿で提供する料理も増やしています」
「器も最初は和食器を使いましたが、炒め物などが多い中華だと映えないんです。それで、白い洋食器を使うようになりました」
ここのディナータイムは連日予約で埋まる。繁盛実績に続く多店舗化については、
「現段階の運営は、京料理と中華料理を修業した自分の経験があればこそ。アルバイトを多用して人件費を削り、その余力を食材原価に反映させている状況なので、後輩が育つまでは多店舗化は考えられません」とのことだ。
◆「京シノワ御蔵表参道店」(東京都渋谷区神宮前五‐一〇‐一、エスキス表参道五階、電話03・5766・5021)営業時間=午前11時~午後2時、5時~11時、無休/坪数席数=九八坪九九席/客単価=四五〇〇円/一日来店客数=一二〇人/月商=二〇〇〇万円
◆「京シノワ御蔵表参道店」の三八〇〇円の中華懐石「山紫」(1面写真参照)/無花果の食前酒、前菜五種盛り(南禅寺ピータン豆腐、いちじくの辛味ゴマだれ、柿と大根の菊花なます、しめじと水菜のお浸し、桜海老と伏見唐辛子の炒め煮)、生湯葉と白キクラゲとレタスの炒め物、鷹峯小蕪の冷製・上湯ジュレソース、冬瓜の煮物・豆鼓ソース、松たけといろいろ木の子の壷蒸し、主菜(四種の中からいずれか一品/京風豚のトンポー煮、京赤地鶏黒酢ソース、山科茄子の田楽添え、和牛のやわらか煮・丹波栗添え、太刀魚の揚げ物と山科茄子のサラダ仕立て)、丹波栗の中国風炊き込み御飯、山くらげのお漬物、秋野菜のスープ、旬のフルーツとマンゴープリン・シャーベット添え、お薄またはコーヒー
■普茶料理
「普茶料理」とは黄檗宗の祖隠元禅師が江戸初期に中国から長崎に渡来し、興福寺に伝えた中国式の精進料理。和式とは趣を異にしている。「普茶」とはあまねく茶を喫するという意味で、禅宗寺院の法要の前後に僧侶たちが集いお茶をいただきながら打ち合わせや反省をする「茶礼」(されい)という儀式からくる。
黄檗宗ではこの茶礼のあと「謝茶」(じゃちゃ)といい、打ち上げの食事をするが、これは黄檗宗のみの習慣で、円形の卓を上下のへだてなく数人ずつで囲み親睦を図る。この食事の形は、元来、個々の膳で身分の順に並んで食する日本の習慣に新風をあたえた。
隠元禅師が長崎にもたらしたインゲン豆、モヤシ、スイカ、ナス、落花生、金針菜などの植物、「ごま豆腐」「ごまあえ」「精進揚げ」「けんちん汁」などの料理は、今では一般的な家庭料理となっている。
普茶料理は油をふんだんに使う。普茶料理の普及によって、民衆に油が広まり、天ぷらも広まっていったといわれている。