注目!ココが光る技あり店(5)FC加盟店舗編 ピザーラ高島平店

2003.01.15 264号 31面

消費スタイルの変化や多様化の進展など、外食産業を取り巻く環境の変化は激しい。個性化の時代にあって、中食需要も高まりつつあり、それに呼応して宅配業界も熾烈な競争を繰り広げている。宅配といえばピザ、中でもTVCMでおなじみのピザーラは有名だが、今回取り上げるピザーラ「高島平店」のオーナー宇井氏は、ほかにも練馬店、光が丘店、小豆沢店の合計四店舗を展開している。その宇井オーナーの光る技を見てみよう。

■FC加盟と独立の動機

「自分が作ったものをお客に召し上がっていただいて喜んでいただきたい」

飲食業が大好きなピザーラ高島平店オーナー宇井仁志氏はこう語る。宇井氏は、中華料理のウエーター、割烹炉端の板前、コーヒー専門店の店長、ファミリーレストランの店長兼新業態開発プロジェクトのメンバーとして、飲食業の道を歩んできた。

しかし、それまで勤めていたファミリーレストランの新業態開発の仕事をしていたとき、物件情報を集めようとふと手にとった業界雑誌のピザーラFC展開の広告が目に入った。低リスクハイリターンの事業の可能性を模索していた宇井氏は早速上司に進言。しかし宅配事業が日本に根付いていない一九八七年当時では取り合ってもらえなかった。

「それなら自分でやってしまおう」と、すぐさまピザーラ本部の浅野社長にアプローチした。そして、宇井氏は一九八七年8月に会社をやめ、翌月には(有)ユーアイを設立、ピザーラ板橋店をスタートさせた。

■他のFCとはココが違う

宇井氏は従業員教育について、「従業員を教育しようとはしません。私がそうであったように、『常に独立欲をもて!』と言っています」という一方で、自分が成長するために何が必要かを理解・浸透させるために、社内アルバイトコンテストによる表彰制度を導入し、全従業員のモチベーション向上の後方支援も行っている。これは、配達従業員はお届け先での接客対応を、店内従業員はピザ商品の製作時間と出来栄えを、それぞれ競うものである。

このコンテスト入賞を目指して、各店舗は代表を選抜、集中的にロールプレーイング方式で約一ヵ月を掛けて繰返し練習することにより技術の向上を図っている。今では従業員が勤務時間外にも店舗にきて、自ら実技指導を願い出るほどだ。

これが発端となり、宇井氏の所属エリアでのピザーラオーナー会でも表彰制度が採用され、ついにはピザーラ本部主宰で「オールジャパンスタッフコンテスト」として開催されるまでになった。昨年11月に初めて行われた同コンテストでは、高島平店の女性従業員が堂々優勝した。

これは、とかく点数化されがちだった評価に、客との会話でのアドリブを重視するなど、従業員の独自性を加えることで、彼らのモチベーション維持と技術の向上を実現したこの店の従業員管理における光る技の賜物であろう。自分たちが発祥となったイベントが全国レベルに展開したことも大きな動機付けだ。

また、通常売上げが下がる時期は必死にビラ配りなどをして、かえって従業員のやる気を低下させる飲食店も多い中、この店独自に行っている社内アルバイトコンテストは、毎年売上げが落ち込む6~7月に実施している。

「売上げの季節変動は必ずある。上がる時期にもっと上がるための準備をするべき」(宇井氏)と、他店が必死に販促活動を繰返すこの期間を、技術の向上期間としてとらえる独特の考え方もまた、宇井社長の光る技である。

■店舗の運営手法について

スタートは順調だった。開業二ヵ月目には本部から練馬店の出店の話をいただき、すぐに出店の決断をした。多忙を極めた。当時は店舗に寝泊りする毎日を繰り返したそうだ。

「週に一度は家内が子供の手を引いて着替えを持ってきてくれました」(宇井氏)

現在では、板橋店を同じ板橋区内の高島平店と小豆沢店に、二店目の練馬店を同じ練馬区内の練馬店と光が丘店にと分割して、合計四店舗のオーナーとなっている。従業員も正社員五人で、各自が各店の店長に就き、宇井社長を中心に固い絆で店舗運営にあたっている。

毎週月曜日には店長が集合し、外販の営業活動について前週の行動とそれらによる販売実績の結果報告を、そして当週の行動計画を発表する。そしてその中で効果が得られた手法を共有し、また失敗したことについては何が問題であったかを全員のこととして意見交換を行っている。

また、常に楽しい食卓シーンの提供を目指す宇井氏は、かねてからピザ以外の主食としてのメニュー充実の必要性を感じており、本部からパスタメニューの追加の提案があったとき、即座に導入に踏み切った。

積極的な営業活動のかいもあり、パスタ導入初日にはチラシなどの販促なしにもかかわらず一二食という注文が入り、今後も大いに売上げ拡大の可能性を秘めている。

■将来の目標・ビジョン

「一時は独自業態の開発を目指したのですが、成功せず大打撃を受けたこともありました。今はその挽回も順調に進んでいます。今後は店舗拡大もいいですが、独立意欲のある社員がいざ独立というときに、全力で協力、指導ができるように、自分自身がその器になっていかなければと思っています」と宇井氏は語る。

宇井氏は、パスタ導入や多店舗展開など、一見拡大志向だが、それはあくまで従業員の独立心を育てるためと言い切る。

((有)マネジメントプロセス経営コンサルティング部・田邉郁也)

●店舗データ

店名=ピザーラ高島平店/所在地=東京都板橋区徳丸六‐二二‐一、電話03・3932・7200/店長=長友一裕/店舗面積=三五坪/平均客単価=三一〇〇円(件)/平均月商=八九〇万円/企業名=(有)ユーアイ/所在地=東京都板橋区徳丸六‐二二‐一、電話03・3559・7780/代表取締役=宇井仁志

●本部データ

企業名=(株)フォーシーズ/所在地=東京都港区南青山五‐一二‐四、電話03・3409・6000/店舗数=五〇六店(直営一四四店、FC三六二店)/モデル収支(二〇坪タイプ)=売上高七〇〇万円、食包材原価二四〇万円、人件費一五〇万円(アルバイトスタッフ人件費)、その他雑費一八五万円(販促費含む)、ロイヤルティ一五万円(税抜き売上げの二・五%かつ上限一五万円)、営業利益一一〇万円

◆FC本部担当者からのコメント

「高島平店のアルバイトコンテストには審査委員として私も参加していますが、アルバイトの真剣さにこちらがたじろぐ場面もあり、教える側の社員のレベルアップにも寄与しています。コンテストの成果よりも、それに取り組む過程が非常に意味を持っています」((株)フォーシーズFC営業部スーパーバイザー藤井政博氏)

◆筆者からのコメント

店内サービスがないため、とかくお客が見えにくい宅配事業において、お客をつなぎとめるのに、商品の質だけでなく、コンテスト実施や店長が配達に同行指導するなど、配達する従業員の質の向上に努めているのはさすがと言えます。一方で、宇井社長の人柄にほれて入ってきた社員も増加するので、独立ばかりでなく、宇井社長とともに長く働きたいという従業員の処遇とやりがいの提供が今後の課題といえるでしょう。

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