飲食トレンド:マクドナルドはどこへ行く 藤田田会長退任の裏側を読む

2003.04.07 267号 1面

日本マクドナルドホールディングスでは、3月の株主総会で会長兼最高経営責任者(CEO)の藤田田氏(77)が正式に退任した。日本の「ハンバーガーの父」といわれ、日本マクドナルドを一代で国内最大の外食チェーンに発展させた藤田氏の退任は、すかいらーくやロイヤルホスト、ケンタッキーなど日本の外食企業の創業者たちの退任とともに、ひとつの時代の終えんを表すものといえるだろう。だが、藤田田氏は本当に表舞台から消えてしまうのか、カリスマの求心力を失ったマクドナルドはどうなるのか、退任劇の裏側を考察した。

((有)清晃代表取締役・王利彰/加藤さちこ)

藤田田氏退任の背景として考えられる要因は、三つある。

(1)年齢・体力的な限界による自主退任(2)業績不振、価格政策の失敗など経営混乱の責任を求める米国側の圧力(3)その他の個人的な理由。

総会前の記者会見では(1)を理由にしていたが、健康面に問題はなく、年齢・体力的にもまだ現役でいけると思っていたはずだ。昨年の上場では、退任も視野には入れていただろうが、もう少し株が上がってからと踏んでいただろう。社内でも退任は秒読みとされていたが、「会長はしぶといから、そんなに簡単には退かない」とみられていた。

記者会見に藤田氏が現れなかったことを見ても、今回の退任劇は本人の意思ではないものとみられる。

Xデーは予想より早く訪れた。それはなぜか。一番考えられるのは、(2)の米国本社の圧力だろう。日本マクドナルドホールディングスの二〇〇二年12月期の決算は二九年ぶりの赤字だったが、不況に見舞われているのは日本だけではない。今年1月に発表された米国マクドナルド本社の二〇〇二年10~12月期決算も、純損益が一九六五年の上場以来初めて赤字に転落した。ライバルのバーガーキングなどとの激しい価格引き下げ競争で収益が長期低迷する一方、BSEの影響を受けた欧州や日本などの海外事業の不振も足を引っ張った。

昨年末には、ジャック・グリーンバーグ会長兼CEO(最高経営責任者)が経営不振の責任を問われ退任。取締役会は、後任に以前国際部門の社長で退任したジム・カンタルポ氏を呼び戻しCEOに就任させ、同時にマクドナルド・ヨーロッパの社長だったチャーリー・ベル氏を社長兼COOにすえるなどして、トップの首がすげ代わった。

藤田氏にとっては、この人事によって米国本社の首脳陣とのパイプが切れ、新しい経営陣から退任の圧力をかけられた可能性が高い。株主総会で米国側から退任要請が出る前に辞任したということだろう。 だが、(3)の個人的な理由説も捨てきれない。昨年末、社内では多くの怪文書が飛び交っていた。

藤田氏の誤算は、店頭公開とインフレの読み違いにあった。店頭公開したのは、子息に資産を譲るためだったといわれている。しかし、その時点で米国が五〇%株を保有しているため、株を手放すと米国側があと一%足せば経営権を取られる恐れはあったのだ。また藤田未来研究所に在籍したことのある、竹中平蔵経済財政・金融担当大臣のインフレ政策の影響を強く受けたためか、価格政策が迷走し、結果的に消費者の不信を招いてしまった。

米国企業の理論では、海外に合弁進出したら、だいたい二〇年で経営権を奪回する。日本のマックが三〇年も続いたのはむしろ異例。

いま合弁で残っているのは日本とマレーシアぐらいだ。米本社は機会があればいつでも現地共同経営者から経営権を取り戻すつもりだっただろう。店頭公開と販売不振が絶好のチャンスとなったわけだ。

事実、3月末の株主総会で決定した新しい経営陣には、米国側から代表取締役に二人が就任。代表取締役社長兼COOの八木康行氏は留任し、これにより代表権を持つ取締役は、日本3対米国2から、日本1対米国2に逆転した。

これまではまだ藤田氏の陣頭指揮によるワンマン経営企業だったが、これから米本社の影響が強まり、大規模な改革が始まるだろう。

米国がどのように日本のマックを活性化させるかは見ものだが、組織の混乱は必至であり、すでに若い社員が離れはじめているともいわれている。

八木社長には経営権を左右する持ち株数も、米国経営陣との人脈をつくり上げる米国駐在の経験もない。これから難しいかじ取りを迫られるのは必至だ。

経営の透明性という意味では、以前から疑問符をつけられてきた日本マクドナルド社から藤田商店に支払われる経営情報サービス料としてのロイヤルティや、藤田商店の子会社に対する食材輸入手数料、また退任しても持ち続けるであろうと思われる藤田一族保有の株式、などをどうするのか注目される。

一方、藤田氏はマクドナルドを退任しても、このままでは終わらないだろう。マクドナルドとトイザらスを店頭公開までさせて、いずれも業界第一位に育て上げた手腕は絶大な評価を受けている。外資系企業にとって、障害の大きい日本市場に参入するうえで有能な人材である藤田氏には大きな魅力を感じているはずだ。米国の小売や流通、外食からスカウトや合弁会社設立のラブコールが山のようにきているのではないと思われる。

事実、膨大な資金と経営ノウハウをもっている藤田氏に対して、さまざまな企業が提携を打診しているようで、米国で急成長のドーナツチェーン「クリスピークリーム」との提携交渉などもうわさされている。

元来、藤田氏は派手なこと、あっといわせることが大好きだ。退任しても、その動向から目は離せそうもい。

台風の目となるだろう。

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