「無添加」回転ずし 出店攻勢かける「くら寿司」、コンセプトは「食の戦前回帰」
「当社のコンセプトは『食の戦前回帰』である」と言う(株)くらコーポレーション田中邦彦社長。今の食事のあり方、外食産業のあり方に対し大きな疑念を持つ同氏は、業界唯一の「無添加」の回転ずしチェーンを展開。前期の関東圏への初出店など積極的な出店政策で二〇〇三年11月期の売上高は約二〇〇億円(前年同期比三二・三%増)と伸張、将来的には三〇〇店舗強で一〇〇〇億円規模を目指している。
田中社長はもともと醸造酢メーカーの社員。当時「食」が化学調味料に頼っていることに憤慨して、昭和52年に自らが経営するすし屋を開業した。「安さばかりがクローズアップされる」(田中社長)という同社だが、合成添加物を一切使用しない「無添加」にこだわり続けながら、コンセプトである「食の安全、美味、安価」を実践している。
食材は化学調味料、人工甘味料、合成着色料、人工保存料をメーカーの協力も得ながら省いている。
一方で同社の強みは「人の知恵とハイテク」にもある。業界をリードする独創性と、国内五件・海外一件の技術特許を取得している技術開発力である。
女性が気兼ねなく口を開け、すしを食べられる客席の個室化(ストレートタイプの客席レイアウト)を一七年前に業界で初採用。精算時に待たせないで客が食数を気兼ねしなくて済む、使用済みの皿をテーブルのポケットに入れて回収する「水回収システム」(特許取得)や、さらに皿を五枚投入するとルーレットが回り、当たりが出ると商品がもらえる「ビッくらポン!」を開発している。
鮮度管理面では、QR(クイックレスポンス)コードという二次元コードを皿の下に添付し、三〇分を過ぎた商品をピッキングする「時間制限管理システム」(特許取得)を全店に設置。ピッキング時間、廃棄数などが表示されるこのシステムは公開している。
客のリクエストオーダー増加への対応、ロスの削減を目的に昨年導入した受注型新システム「タッチでポン」では、注文したものが確実に届くと好評。「事前に作ったものが流れ、そこからとってもらうのが本来の姿だが、約三割のお客様は作りたてでないとだめ」「東京の店でピーク時に一日四八〇〇件のオーダーがあった」(同)と言う。
「経営効率でいうと、一時的にすし職人の経費増や廃棄率の上昇、回転率の低下など問題もあるが、将来的には作りたてのニーズの増加、ゴミの削減、一〇〇円で安く提供し続けるためにはこのシステムが必ず必要になってくる」(同)と述べる。
回転ずし業態の最大の懸案である廃棄の削減には、オーダーは客が着席してから五分間に集中することに着目。着席から五分まで、五~一〇分、一一~一五分、一六分以降の四段階と大人・子供別に、独自の「実質飲食客係数」を店舗や時間ごとに設定し、回るすしの量をコントロールすることで廃棄の削減に取り組んでいる。
「現時点でベルト上のすしが三〇分以内に食される確立は約九〇%。一昔前の夢の数字だ」(同)。また今年2月に業界初の試みとして、すしが回るベルトを中国から調達するなど、コストダウンに積極的に取り組んでいる。
店舗展開では二〇〇二年度に関東圏一号店として東京(八王子)に初出店。今上半期には関西圏六、関東圏五店舗を出店し合計店舗数は七二店舗。今下半期にも関西圏六、関東圏五店舗を出店する。
関東圏については、既に三〇店舗規模の処理能力を持つ自社加工工場を埼玉県に建設済みで、「関東出店の土壌は整った」「当面は関西・関東圏を合わせて年間二五店舗を出店。その後は中京圏、八大都市への出店も視野に入れている」(同)としている。
関西と関東の違いは「関西の赤だしに対し関東は味噌汁。関東はうどんなどのサイドメニューが出ない。また道路交通法改正の影響が関西に比べ大きかった」。
マーケットについては「回転ずし市場は約五〇〇〇億円、すし全体では約一兆五〇〇〇億円の中で回転ずしはまだまだ伸びる。高級系の回転ずしの展開も考えられるが、(ポリシーである)時間管理を徹底できることが条件」(同)と述べた。
◆「くら寿司」=客単価一〇〇〇円前後、標準店舗面積一二〇坪、客席一五〇席、駐車場四〇~五〇台