ピカイチキッチン(66)食品衛生管理不備の実情
●SSOPの重要性
気候の変化に伴い食中毒事故がもっとも懸念される季節となっている。こうした季節には、小生も各地に衛生教育やセミナーで出かける回数も多くなる。特に学校給食現場では、夏休みのこうした機会を利用して勉強会を催したり、厨房の改修や新設工事を進めるケースが多い。
先日も、ある地方都市の学校給食のセントラルキッチンを開業するに当たって、HACCPを導入したいのでその支援をしてほしいとの要請があった。しかも学校の夏季休暇中に終わらせたいとのことであった。
私は、当然HACCPを導入するためには事前にSSOP(標準作業手順書)が検討され、既に完備しているものと想像していたが、これが大きな間違いであったことを思い知らされた。SSOPの意味や何故重要かなどが理解されていないばかりか、作業方法を示すマニュアルも作成されていないのである。これでは、HACCPを導入することは至難だろう。
周知の通り、HACCPで重要な「危害分析」をどうやってするのだろうか。HACCPでは、作業手順を分析して危害を招く恐れのある要因を、あらかじめコントロールする必要がある。しかし、作業手順書がないということは、どうやって作業するのか分からないばかりでなく、使用機材や使用条件が明示されていないことから、危害分析は当然困難となる。
これでは、HACCPを導入するという意気込みとは反対に、うまくいかないことは明らかである。つまりHACCP導入の意味がない。こうした現場では、HACCPを検討する前に一般衛生管理や作業の手順を書面でまとめ、訓練しておくべきだろう。
●真のHACCP教育
現場でHACCPを教育するためには、まず経営者自身と管理者、それに従業員がその意味を正しく理解しておくことが重要である。また、HACCPは導入することが目的ではなく、実行し事故をなくすことが使命である。したがって、HACCPシステムを実行管理できる人材の育成が、先進国では急務とされている。
国内のフードサービス業界にHACCP導入が推奨されておよそ10年になるが、HACCP教育を理論だけで済ませる時期は終わり、トレーニングを中心とした教育方式を進めることが必要だろう。こうした点、衛生管理の認識レベルは二極化しているのではないだろうか。
すでにマニアルに沿って実践しているケースがある半面、未だに「HACCPとは…」といった初歩だけに終始しているケースもある。こうした場合、おそらく10年たっても状況は同じように思われる。また、HACCPの導入は、可能な限り企業内スタッフ全員で協力して進めることが効果的と考えられる。
決して「他人任せ」的手法では成功しない。
((有)本山フードビジネス研究所代表・本山忠広)