外食史に残したいロングセラー探訪(3)尾道らーめん味龍「新・尾道ラーメン」
ご当地ラーメンブームで知名度は全国区となった尾道ラーメン。「尾道らーめん 味龍」は、地元客はもちろんのこと、観光客からも大人気のラーメン店である。この店には、開発されてまだ5年と、歴史はそれほど長くないものの、既に定番メニューとなった看板商品がある。
店の新看板となったのは「新・尾道ラーメン」。開発の経緯について(有)味龍/竹國文裕社長は「飽きがきたから」と言う。
定番メニューである「味龍らーめん」(480円)や「特製チャーシューめん」(820円)は確かに人気があり、創業以来約30年間、ずっと同じ味を守り続けてきた。しかし、地元常連客からの「少し飽きてきた、変わったメニューが欲しい」という声を聞き、「ならば新しいラーメンを」と新メニュー開発がスタートした。
だが、具を少々変えたぐらいでは、他店との差別化にはならない。そこで考慮の末、まず「辛いラーメン」、そして「みんなが好きなもの」という2つをポイントに置いた。
実はこの店には、スタッフに大人気の賄い料理があった。それは、麻婆豆腐をご飯やラーメンにかけたもの。「ならば、これをヒントに」と思い立ち、商品化したのが「新・尾道ラーメン」だ。
具となる麻婆豆腐には、ボリュームを出し、さらに食感を演出するために粗さの違う2種類のひき肉を使用。この2種類のひき肉を豆板醤と甜麺醤で強火で炒めて、香ばしさを出すのがコツだ。ただし、尾道ラーメンの特徴であるスープとのバランスを取るために、麻婆豆腐の辛さや味は少し抑え気味に。そして、「とろみを十分楽しめるように」と、下敷きとなるスープの量は通常のラーメンの3分の1にした。
開発中、特に悩んだのが、「豆腐をつぶすか、つぶさないか」であった。豆腐をつぶさずに形を残したままならば、確かに見た目はきれいだが、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べる賄い食の醍醐味が色あせてしまう。
「ぐちゃぐちゃの方がおいしいが、人前でぐちゃぐちゃに混ぜることに抵抗のある人もいるはず。ならば、『注文しやすく、味を優先』ということで、ぐちゃぐちゃの賄いスタイルを踏襲した」と竹國店主。
そうして、単なる麻婆ラーメンとは違う、尾道ラーメンの路線を守った「新・尾道ラーメン」が誕生した。
意外にも、「ぐちゃぐちゃスタイルを敬遠するのでは」と思われた女性客から、圧倒的な支持を得ており、麻婆豆腐のとろみの残ったスープを全部飲み干す客も少なくない。
たとえ老舗であっても、新しい定番を生み出す努力は常に求められているのだ。
◆料理の決め手=さぬきの夢2000
味龍のラーメンは、すべて尾道店に隣接する製麺工場「麦香房」で作る麺を使用。その麺作りは「子どもたちに安心しておいしいラーメンを食べさせたい」と、小麦粉選びから始まった。
無添加の国内産、しっかりとコシの出る風味豊かな小麦粉を求めて生産者を訪ね歩き、ようやく巡り合ったのが、風味・コシ・粘弾性・色・滑らかさ、すべてが最高品質と名高い香川県産「さぬきの夢2000」。讃岐・門外不出の逸品だったが、竹國社長の熱意で入手がかなったという。これに岩手県産「ナンブ」、岩手県産「ゆきちから」、北海道・福岡県産「麦のいぶき」をブレンドし、味龍オリジナルの無添加小麦粉が完成した。
●企業データ
「味龍尾道店」/経営=(有)味龍/店舗所在地=広島県尾道市高須町5193/創業=1976年10月/ほかに「箕島店」がある。