外食史に残したいロングセラー探訪(6)「千疋屋総本店」フルーツサンドイッチ
果実商としての千疋屋総本店の創業は江戸時代にさかのぼり、明治時代にはすでに現京橋千疋屋、銀座千疋屋をのれん分けしていたという。現在の代表取締役社長である大島博氏は、なんと6代目にあたる。こうした長い歴史を持つ同社で経営するフルーツパーラーには、「フルーツサンドイッチ」という定番商品がある。
(株)千疋屋総本店、取締役企画・開発部長の大島有志生氏によると、「フルーツサンドイッチをはじめた当時の資料が残っていないので正確なところは分からないが、おそらく本店ビルを新築開店した昭和40年代ごろのことではないか……」という。
名実ともに果物専門店としての老舗ブランドを誇る同店だからこそ、果物の品質には絶対の自信があり、同商品にも、もちろん「そのまま食べておいしい」果物を使う。例えば、甘みを加えるためにシロップに漬ける……などの一切の仕込みを行なわず、カットしたままのものをフィリングするので、果物の持つ甘さ、酸っぱさ、香りといった個性を十分に楽しむことができるのだ。
同商品では、その時期に一番おいしい、「いちご」「キウイフルーツ」「パイナップル」「パパイア」の4種類の果物が使われる。
「この4種類の組み合わせは、おそらく生クリームとの相性から考えられたのでは」と大島氏。果物には、生クリームとの相性の良しあしがあるので、生クリームと相性が合う、これらの4種類の果物が採用されたのだろう。
生クリームは2種類をブレンドして、マイルド感を出す。だが、あくまでも主役はフルーツであり、生クリームは、いわば「つなぎ」。フルーツの味覚を引き立たせるために、甘さは控えめに調整している。
生クリームには、もう一つ大切な働きがある。それは、果物から出た果汁でパンが湿るのをブロックする役目。普通のサンドイッチで使うバターやマーガリンと同じように、生クリームの油膜によりパンを水分から守るのである。
また、同商品に使われている食パンにも工夫がある。そのまま食べておいしい、ふんわりとしたものでは水分を含みやすく、フルーツサンドイッチとして食べた時の食感が悪くなってしまう。そこで、多少身にしまりのある食パンを12枚切りの厚さで使っている。
手土産としての人気も高く、テークアウトとして1日平均5食のオーダーがあるほか、1階の売店でも個数限定で平日10食、土日15食販売している。
同商品から発展した、フルーツとアボカド入りの「ミックスサンドイッチ」(1260円)も好評だ。
女性客に圧倒的な支持を得るフルーツサンドイッチ。これからも老舗の定番商品として、かわらぬ最高級のおいしさを提供し続けることだろう。
●企業データ
「千疋屋総本店」/経営=(株)千疋屋総本店/店舗所在地=東京都中央区日本橋室町2─1─2、日本橋三井タワー内、電話03・3241・1414(フルーツパーラー直通)
◆フルーツサンドイッチ(1050円)1日食数=約35食
フルーツサンドイッチの決め手は、なんといっても新鮮なフルーツ。旬の最もおいしいものを求めて、国産品、輸入品を使い分けている。
イチゴ=国産では、福岡の「あまおう」など。「あまおう」とは、「あかい」「まるい」「おおきい」「うまい」の頭文字を取ったもので、平均糖度13度以上。夏場はアメリカ産のイチゴを使っている。キウイ=国産では愛媛産や香川産。季節によりニュージーランド産を使用。パイナップル=甘みと酸味のバランスが良いフィリピン産の「ゴールデンパイン」。パパイア=完熟したハワイ産の「ハワイアンソロ」。