特集・多様化する宅配 “不毛地帯”北海道で注目の展開「テン・フォー」

1994.12.05 65号 12面

四%経済といわれる北海道は外食産業にとって非常に環境の厳しい地域だ。その不毛地帯で、(株)オーディンフーズ(北海道函館市、0138・43・3455)が展開するデリバリーピザ「テン・フォー」は、わずか六年目にしてチェーン七〇店舗を達成。北海道全域を網羅した。デリバリーピザは都市圏での出店が定石とされただけに、「テン・フォー」の展開例は注目されるところだ。間もなく本格的に本土上陸に乗り出す「テン・フォー」のやり方を探ってみた。

「テン・フォー」の売り物は、三〇センチメートルサイズ約一四〇〇円、二三センチメートルサイズ約一〇〇〇円という通常のピザ店の約半値の低価格設定だ。なぜこのような価格設定が出来るのか。

「チェーンの展開にあたり本部に課せられる鉄則は、スケールメリットを追求して価格に反映させることです。当然ですが、そのためにはロット購入と流通の簡素化が重要です。幣社の食材・機器類は、年度出店計画に基づいた数量を年頭にロットで購入。メーカーから大幅な値引を引き出します。その交渉も仲介は一切通さず、メーカー本部と直に行うのです。海外調達も普通です」と、ダイレクトな一括仕入れを要因に挙げる。

「もとよりピザは大衆食のはず。その路線に立った展開が現在のシステムを構築しただけのこと。目新しさと流行を追い風にした先駆のピザチェーンとは、出発時のコンセプトにおいて既に一線を画しているのです」と、地道な軌跡を強調。いままでのピザが高すぎただけだという。

さまざまな低コスト戦略を講じて低価格化を図るが、品質だけは決しておろそかにしない。食材原価率は他チェーン約二〇~二五%に対し、約三五%。チーズは海外、国内産を六種類独自に配合したもの。品質の高さはすべてにおいて自負している。

また特筆すべきは「和風」をテーマにしたトッピングやソースの数々だ。「ローカルマーケットは市場規模が小さいと同時に若年層が少ない。したがってファッション的なメニュー展開は通用しない。老若男女を問わずして受け入れられるメニュー開発が必要」という発想が、「和風」のテーマを生み出した。

人気メニューのトッピングをみると、「ビーンズファームピザ」は長芋、モヤシ、インゲンなど、「ゴールドラッシュピザ」はキンピラゴボウ、牛ソボロなどユニークなものばかり。ほかにもタケノコ、ショウガ、福神漬や豚角煮、唐揚げなど珍しいトッピンが豊富。また、ソースは定番のトマトソースをはじめ、カレーソース、味噌ソース、醤油ソースの四種類。組み合わせ自在で多様なニーズに対応している。

低コスト路線は店舗オペレーションにも波及している。

一店舗の開業資金は約一〇〇〇万円。コンベヤーオーブンなど最低限必要な機器を揃えるだけでよい。リーダー店制を採用しているためだ。これは、地区のリーダー店がその地区全店の食材や売上げを管理、下ごしらえを一括して受け持つシステムで、各店舗はリーダー店へ日参して食材調達、入金、状況報告を行う。そのため出店するスペースは約一二坪あれば可能。食材の在庫管理が省け、人件費の削減も図れる。

また、日参による食材回転率の向上で、食材は常に新鮮な品質を保持できたり、食材ロスがセーブ出来るといったメリットもある。

デリバリーの際、三輪バイクではなく、軽自動車を使うのも特徴だ。冬場の雪対策から軽自動車を採用したわけだが、思わぬ効果も発揮している。

まず、三輪バイクには必需とされるメンテナンスコストが車にはほとんどかからないこと。これだけでも一台当たり年間五~一〇万円のコストが省ける。また、償却期間も三輪バイクに比べて倍以上に長い。

安全面からみても、車がバイクより優れているのは周知の通り。当然、デリバリーは普通免許取得者に限られるため、原付免許だけを取得しただけでデリバリーする者に多い交通事故も未然に防止できるのだ。

軽自動車を活用したメリットは車庫証明が不要で、渋滞の少ない地方ならではの特典といえよう。

「テン・フォー」は、都市圏のデリバリーピザ店とは一味違ったコンセプトで市場に足場を築いたが、これからのねらいは一体何か。

「弊社は、北海道という外食産業にとって厳しい地域でも展開可能なノウハウを蓄積した。これは他の地域でも受け入れられるはず。道内の出店はし尽くしたし、弊社ならではの『和風ピザ』を各地に提案していきたい」と、本土上陸をほのめかす。既に青森県では二店舗を展開済み。来年以降本格的な南下戦略が始まりそうだ。

また、バイクでなく車を使っていることから考えられるピザ以外のデリバリーについては、「その可能性があるため、店名のロゴを『ピザファクトリー』から『フードファクトリー』に改めたのです。具体的には企業秘密ですが」と、ニヤリと笑う。デリバリーピザを踏み台に、デリバリーフードサービス業の多角化を虎視眈々とねらっている様子がはっきりと伺えた。

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