トップインタビュー ワタミフードサービス・渡邊美樹代表取締役社長
‐‐“居酒屋”をあえて“居食屋”と名乗るなど、切り口を変えた業態開発には定評があります。外食の現状をどのように捉えているのですか。
渡邉 FRなどのレストラン業態と居酒屋の垣根が崩壊しつつあると見ています。消費者からは少量多品種でオリジナリティーのある本物志向のメニューが求められており、レストラン業態では“定食”でない食事を提供する時代にさしかかっています。居酒屋業態ではアルコール一辺倒のニーズが色あせ、一品料理をさらに研ぎ澄ましたり、雰囲気を明るくする傾向が目立つ。つまり、レストランが居酒屋化、居酒屋がレストラン化を目指しており、双方の業態の歩み寄りが進んでいるかに見えます。その接点に大きなマーケットチャンスがあるとにらんでいます。
‐‐具体的には。
渡邉 例えれば「ガスト」のやり方です。DSばかり取り沙汰されますが、セットメニューを外して一品メニューを強調した居酒屋的戦略こそ注目すべきです。最近は「ガスト」の都市型店舗として「ビルディー」という業態が出店されましたが、これにアルコールメニューを充実させれば立派な居酒屋です。「和民」でもロードサイド店や、大型SC(ショッピングセンター)内への出店を加速させています。それらは当然居酒屋メニューではなく、レストランメニューと位置付けています。双方の取り組みに共通することは、業種、業態の枠組を越えて外食の新たな“場面”を創造することです。今後は、業種、業態よりも、“場面”設定を先行させた店舗展開が外食産業の大きな流れとなるでしょう。
「ビルディー」についてはわが社でも一目置いています。都心型で一品メニューをそれぞれオーダーする居酒屋的システムで安価となれば消費者の満足度は高まるし、店側も一品一品の品質を向上させざるを得ない。図らずとも相乗効果が生まれる。既存のセットメニューをバラして単品化しただけならば恐くはないが、一品一品が本格化して従来のメニュー構成を残したならば、モーニング、ランチ、喫茶、ディナー、夜食と五つの顔を持つこととなり脅威ですね。
‐‐消費者の訴求する新たな“場面”の創造を強調されますが、具体的な取り組みは‐‐。
渡邉 キーワードは“家庭”です。家庭の手造り料理が減り、都心離れとプライベート志向が進む今後は、住宅立地型の業態が必要になると見ています。もとより「和民」は“もう一つの家庭の食卓”をモットーに手造り料理を展開してきましたが、今後は、既存の駅前型、SC型に加え、地域に密着した住宅型を強化します。
ロードサイド型や商店街型では、もはや市場は飽和状態にあり、物件費も下がったとはいえまだまだ高過ぎる。それでも業種、業態のアイデンティティが通用すれば良いが、あらゆる業種、業態の垣根が外れ、同じ土俵で戦えば減価償却の終了した他の飲食店が有利。したがって経営的にも新たな立地を開拓しなければならないのです。また、住宅立地型の「和民」は五年のサイクルをにらんだローコスト出店を想定しています。総資本率対営業利益率を年間四〇%として二年半で償却。残りの二年半で儲けて五年目に全面改装をかけてゆきます。時代の流れは加速する一方です。一〇年といわれたチェーンコンセプトもいまでは五年で陳腐化してしまう恐れがある。消費者ニーズに合わせたチェーンコンセプトを鮮明に打ち出すためには、総資本金を下げ、資本回転率を高めて早めに回収して次に備える必要があるでしょう。
‐‐かなり投下資本が低下しそうですね。
渡邉 いままでの半分に抑えなければなりません。当然品質、サービスを落とさずにです。それが出来るか否かが、今後の外食企業の命運を握っているのではないでしょうか。つまり、いままでノウハウの蓄積のある企業、無い企業の差が明確に表れるということです。いままでの外食産業は炭鉱と同じです。掘り当てたらそこに大きな市場があった。後から真似する者が相次いだというだけです。それがいまの業種、業態を支える基盤でありますが、業種、業態の枠組みが崩れつつあるいま、またそれぞれの市場が飽和状態となろうとしているいまは二匹目のドジョウ的なノウハウでは、通用しないでしょう。
順風満帆に市場を拡大して来た期間にどれだけ次の時代に備えて足腰を鍛えて来たかが試される時代に突入したといえます。
現在の売上げランク一〇〇位などは数年で激しく入れ替わると見ています。
‐‐その決め手となるノウハウは何ですか。
渡邉 商品開発力につきるでしょう。立地や出店と同様なローコストの開発に加え、手作りがキーワードとなります。
いまの外食チェーンは似たような味ばかりで消費者から飽きられ始めています。調理済の冷食に依存し過ぎに見えます。PBで独自の開発を施すなど工夫の跡は見られますが、発注先のノウハウが同一である現状では現場サイドの要求するメニューが緻密に再現される可能性が薄い。現場が培ったノウハウをいかにスムーズに発注先へシフトできるかが今後のカギとなるでしょう。将来は手作りが正価格帯、調理済の冷食がDSといった価格帯のすみ分けが生じると思います。
‐‐ありがとうございました。
昭和34年生まれ、明治大学商学部卒業。学生時に北半球を一周して一つのことに気が付いたという。それは「人は肌の色や宗教や主義、主張にかかわらず“おいしいもの”があり“よいサービス”があり、よい雰囲気の中で好きな人と一緒にいる時、家族と一緒にいる時、素晴らしい笑顔をする」ということだ。人が最高の笑顔をする場、つまり「あらゆる出会いとふれあいの場と安らぎの空間」を提供することができたなら幸福だと思い、外食産業に足を踏み入れたという。現在「もう一つの家庭の食卓」をテーマに居食屋「和民」四三店舗、お好焼「唐変木」三店舗、フードケータリング「KEI太」七店舗を展開。創業一一年目を迎える。年商は四九億円。
(文責・岡安)