ガソリンスタンドの飲食戦略 ベーカーリー、パブ、喫茶、家庭料理で二毛作

1996.03.18 97号 2面

(1面からつづく)

ジャスコ、ディスカウントチェーンのカウボーイなどもダイエー同様に着々とGS事業を進めている。それらに呼応して既存GSの多角化機運は高まる一方だ。

「GS業界は低価格競争の行き過ぎで、現在の利益は一〇年前の約二分の一にまで落ち込んでいる。そんな折りに大手量販店に参入されたらますます先行きが不透明になる」と、あるGS小売店主は漏らす。

「GS業界も他の小売業界と同じ。本業以外の付加価値サービスでオリジナリティーを、もしくは多角化を打ち出さなければ価格競争の果てに尽きてしまう」

多角化の裏には規制緩和がもたらす切実な事情があるのだ。

そんな一方、ここ二、三年で旧態依然と過ごしてきた石油業界のツケが一気に噴き出し、多角化しなければ小売店が潰れる、との指摘もある。元売りの無節操な立地のマーケティングや過剰出店、系列店と地場小売店との不透明な卸価格、各社横並びでマンネリ化したキャンペーンなどで、利益は年々減少。先細りで店をたたむ地場独立小売店が増える一方だという。

経営難の地場独立小売店が現状を維持するため多角化に乗り出すケースも多いのだ。つまり、GSの多角化機運は業界の問題解決に向けて自然と発生したものであり、特石法の廃止でそれがさらに明確化したとも言える。

だが、このような試みがすべて成功するとは限らない。CVS「ampm」との複合化で多角化に先べんをつけたジャパンエナジーは、「GSの複合展開ではドミナント化に時間がかかり物流コストが重荷。一般のCVSと比べて集客力が弱く、CVSのフォーマットでは採算が厳しい」とし、ampmを一般のCVSと同様、独立展開に方向転換している。二足のわらじは簡単にはけないという。

焼きたてパンの神戸屋と提携するゼネラル石油でも「FFはあくまでもGSユーザーへのサービス。FF単体で見ると採算が厳しい」とし、軌道に乗せるには時間がかかるという。

さまざまなもくろみが交錯するGSの飲食施設を取材した。

東京都三鷹市でGSを展開する金子商事(株)は五年前、GS事務所の二階フロアにカフェ「デイ・バイ・デイ」を設けた(1面写真参照)。日中はランチと喫茶、夜はパブの二毛作店である。GS事業だけでは利益が出ないための苦肉の多角化だったが、いまやGSよりも利益率がはるかに高いとし、オーナー自ら厨房、カウンターに入る力の入れようだ。

「GSの過剰出店や行き過ぎた価格競争のあおりで利益が減少、三鷹市の地場の独立小売店は減る一方にあった。特石法廃止でさらに拍車がかかる。飲食事業は現状を維持する苦肉の策だった」オーナーの太田和雄さんは出店当時をこう振り返る。

畑違いの飲食事業、決まった商品を売るだけの商売に慣れすぎて戸惑いの連続だったという。「とにかく真面目な商売を」。地場地域密着型のGSを目指してきた信念だけは事業が変わっても捨てなかった。

最近、周囲の住民層に合わせた地域密着型のメニューづくりが実を結び始めている。近隣のパート主婦のアイデアを採用した、薄味、油控えめのさっぱり家庭料理のランチがクチコミで広がり、昼時はウエーティングができるほどになった。常連客も増える一方にある。GS事業にも相乗効果が表れ始めているという。

「ランチの成功で自信がついた。ディナータイムの活用法や原価計算など学ぶべきこともたくさんあり、仕事として楽しくなってきた」と、先行きは明るい。

同店の試みは、地域のために本気で取り組む多角化であれば、価格競争や過剰出店にとらわれずにGSを維持できることを実証したといえるだろう。

◆カフェ「デイ・バイ・デイ」(東京都三鷹市上連雀八‐四‐五、Tel0422・43・2820)

焼きたてパンを売るベーカリーカフェ「ツムトーベル東金店」を併設することで、客の流れを変えているのが千葉日石(株)(船橋市南本町、0474・34・4111)東金店石油スタンド。

当初、ガソリンスタンドの客が隣接するベーカリーカフェに足を運べばよしとしていたのが、逆にベーカリーを目的とする客、ベーカリーからスタンドに足を運ぶ客と、予想しない客の流れとなった。

同店が立地する千葉県東金市一帯では、ガソリンスタンドがここ二~三年で、旧来の三店から一挙に十数店に増加、狭い商圏をめぐっての激戦区と化した。

長野紀子企画室長は言う。

「激しい競争下、千葉日石の個性づくりに、コンビニ、モスバーガー、ほか弁などとの併設を考えたが、立地条件からわざわざ来店する必然性に薄い、通過客のターゲットでは季節変動が激しい、と消去法でいったら、結局ベーカリーが残りました」

飲食にまったく経験のない同社だが、たまたまドイツから無農薬、無添加のパン生地を成型し冷凍輸入しているツムトーベル社と知り合っていたことから、いっさいを同社に依存することにする。

成型済みのパン生地は、マニュアル化されたオーブンで焼くだけ。経験を必要とせず、「四日間ぐらいの研修で対応できるようになりました」(スタッフ)。

客層は、二〇~三〇代の主婦を中心に、時間帯により若者やお年寄りと幅広い。近くの東急が開発する一〇年計画の三年目、最終的には一万五〇〇〇世帯となる「季美の森」は、東京からの住民がほとんど。「付近にこうした店がないので、確実に固定客になっています」という。同店では、当然潜在商圏としてターゲットに入れている。

「将来はデリバリーも考えており」単価の高い後背地・八街市の三世帯同居住民も新顧客層に加え、着実に客層を広げている。

オープン景気で一日平均一五〇人近くの集客だが、今後いかに魅力ある店づくり、メニューづくりをしていくかが地元に根付く鍵となりそうだ。

◆「ツムトーベル東金店」(千葉県東金市山田、Tel0475・52・7276)=一七坪、一四席、一日来客数約一五〇人、客単価テークアウト約一〇〇〇円、イートイン約五〇〇円

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