トップインタビュー 日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会事務局長・高橋洋介氏

1996.04.15 99号 3面

‐‐ヘルシーブームを背景に有機食品に対する関心が高まっていますが、最近は有機野菜と同様なイメージで“オーガニック食品”という用語を良く耳にします。一般的には有機野菜の英語と捉えられているようですが、実際はいかがなのでしょうか。

高橋 言語的にいえば“オーガニック食品”と“有機食品”は同じです。しかし日本の有機食品と海外でいうオーガニック食品では解釈がかなり離れています。

国際的な定義では、第三者からオーガニック生産されていることを認定(証明)され、しかも、いつ、どこで、だれによって、どのように生産、加工されたかを追うこと(監査追跡)が可能な食品だけをオーガニック食品といいます。つまりオーガニックには“認定”の意味が含まれています。

欧米ではオーガニック食品に対する関心が高く、定義や許認可を法令化する動きが目立ちます。それらは、生産の段階のみならず加工、流通、販売それぞれの段階にも法令に基づく取り扱い方法を義務付けています。

ところが日本の場合、日本語に訳された有機食品(オーガニック食品)を見ると、第三者的な認定機構がなく、自称の有機食品が無節操に氾濫しています。

農林水産省が発表した有機食品のガイドラインも玉虫色かつ生産者レベルのものに過ぎず、国際的基準にははるかに及びません。許認可管轄する第三者的認定機構もなく、それぞれ解釈が異なる自称の有機食品が増える一方です。

オーガニック食品と有機食品の定義は本来は同様です。しかし日本では有機食品のクリーンなイメージを売り物に商業ベースの取り組みばかりが進んだため、日本でいう有機食品は用語だけが一人歩きして、意味としてはオーガニック本来の筋道から外れているのが実状といえます。

‐‐オーガニック食品の国際的な定義をわかりやすく聞かせて下さい。

高橋 オーガニック食品とは、農薬や合成化学肥料を使わずに栽培された農産物、抗生物質や成長ホルモンを投与せずに飼育した畜産物、そしてそれらのオーガニック素材を使い、添加物や加工補助剤を使わずに製造・加工した食品のことです。

生産から末端消費にいたるまで一貫して合成化学薬物を否定し、土壌の保全など環境への配慮を基本テーマに取り組む。そして、オーガニックの定義を生産のみならず加工、流通、保管などすべての段階に設けることで、初めてオーガニック食品が成り立つのです。

‐‐国際的見地ではどのような基準があるのか具体的に聞かせて下さい。

高橋 「IFOAM」(アイフォーム)というオーガニックを広めている組織があります。ここには世界約一〇〇ヵ国、三〇〇以上のオーガニック認定機関が登録されており、それぞれが個々の基準に沿い、第三者の立場でオーガニック食品の認定を行っています。

例えば最近日本でもよく目にする米国の「OCIA」(オーガニック農作物改良協会)のオーガニックの定義でホールトマト缶詰を見ます。それによると‐‐

(1)「生産段階」原料のトマトは三年以上農薬や化学肥料を使用していない認定農場で栽培され、他からの汚染(他の畑の農薬散布など)の危険性がないもの(安全性を確保する農業資材などの基準もある)。

(2)「加工段階」トマトの缶詰は製品の九五%以上(水と塩以外)が認定原料であること(トマトの皮むき処理には環境に悪影響の可能性があるアルカリ液の使用は認めないなど加工方法の基準や、加工工場にも原料、製品管理などの基準がある)。

(3)「保管・流通段階」一般の製品と混ざらぬよう、またくん蒸されぬよう、個別管理システムを保持すること。

(4)「卸業者、小売業者段階」取扱い業務を公正に行うため第三者的な管轄機構を設ける。

以上のように原料が加工され製品になり店頭に並ぶまで、ものが動くすべての段階にオーガニックの基準があるのです。

‐‐オーガニックの定義を巡る国際的な論議が今後起きそうですか。

高橋 日米で異なるオーガニック食品と有機食品の認識が今後論議の的となるのは間違いありません。米国では一九九〇年に「オーガニック食品生産法」が成立し近々実施されるところまできています。

米国は安全安心な食品を売り物にガットを始めとする農産物交渉で門戸解放を迫るのは必至。自称で過ごしてきた日本の有機食品にとって脅威になるはずです。一刻も早くあいまいな有機理論に終止符を打ち、本来のオーガニック理論に基づく第三者的な認定機構を設けなければなりません。

‐‐日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会がその第三者的な認定機構の先駆けというわけですね。

高橋 その通りです。オーガニック食品の国際団体(IFOAM)に加盟し、すでに生産者からの申請を受け付けています。今月末には審査、認定が終了し、日本で認定したオーガニック食品が初めて誕生します。

オーガニック認定にかかる費用は、申請料・一万円、認可料・二万円、それに売上げの〇・五%(協会運営費)。いままで海外にオーガニック認定を求めていた、もしくは求めようとしていた生産者にとってはより身近な認定機構になるはずです。

協会発足以来、本来のオーガニック食品の在り方を理解していただくために活動してきました。いまでは食品メーカーを主力に協会員八九社で組織化し、認可機構としての役割を担えるところにまできました。第三者的な認可機構の位置づけで今後も協会活動を進めて行きます。

‐‐今後を期待します。ありがとうございました。

高橋洋介・昭和8年ソウル生まれ。一三歳から京成電鉄に勤め、かたわら農業にも従事。二七歳から化成肥料や農薬の販売に着手した。

農家を訪ねるたび「農薬のせいで喉が痛い」などの声を聞き、農薬害に対し危機感を抱く。以後、日本の農業の伝統、すなわち本物の食べ物を作る技術や知恵を伝えるべく日々奮闘。自称の有機食品が氾濫する昨今、有機の正否基準をつくるべく、本来のオーガニック理論に基づいた第三者認定機構の設置に尽力。

現在、日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会の事務局長として手腕を振るう。有機食品、オーガニック食品の論議が各方面で取り沙汰されるなか、日本国内におけるそれぞれの現状と今後の課題を聞いた。

(文責・岡安)

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