外食史に残したいロングセラー探訪(79)自由軒「名物カレー」

2013.09.02 414号 17面
名物カレー(680円)。手間をかけて作ったカレーベース。「スタイルはまねできても味はムリ」と料理長

名物カレー(680円)。手間をかけて作ったカレーベース。「スタイルはまねできても味はムリ」と料理長

難波本店。戦争で一時は消失していたが、2代目によって再建された

難波本店。戦争で一時は消失していたが、2代目によって再建された

 大阪・難波に、100年以上も続く「名物カレー」の店がある。休日のピーク時には、今なお行列をつくり、地元のお客だけでなく、国内外の旅行客が足を運んでいるのが「自由軒」だ。カレーとご飯をまぜ合わせ、生卵と一緒に食べるという独特のスタイルは、明治時代から変わらないメニューとなっている。

 ●熱々を食べてほしい

 まだ炊飯器がない1910年、名物カレーは生まれた。炊飯器のない時代だからこそ誕生したメニューといってもいいだろう。創業者の吉田四一氏は、当時珍しかった洋食を気軽に食べてもらいたいと西洋料理店自由軒を開いた。ビフカツなどのメニューの中でも特に人気だったのが、カレーライスだった。

 カレーライスが独自スタイルになった理由は、寒い冬でも熱々のカレーライスを食べてもらいたいという創業者の思いから。熱いカレーと冷めたご飯をまぜ合わせることで、熱々を提供できることになった。

 そのうえ、まだ洋食のマナーが浸透していない時代。ご飯とカレースープを別々に出せば、戸惑うお客もいるだろう。「ご飯とカレースープがまざっていれば、迷うことなくスプーン1本で食べられます。お店の回転も早くなりますし」と、笑いながら同店の看板的存在の“若女将”吉田純子さんは話す。さらに、カレーの辛さをやわらげるため、当時は高価だった卵を中央にのせた。創業者の吉田氏は、滋養のある卵と珍しい洋食を併せて、欧米に負けない体をつくり、大阪の人を元気付けようとしたのである。

 ●旅行客も多く、幅広い客層

 大阪の繁華街という場所柄、昔は男性客が多かった。今では女性1人客も多く、小さな子どもから、昔食べた味を懐かしむ高齢の方まで、老若男女が訪れる。「店内のレトロな雰囲気が好き。気ぜわしいけど、それも味があると、おっしゃってもらっています」と吉田さん。創業時の店舗や、同店に頻繁に足を運んでいたという作家の織田作之助氏の写真などから、歴史も味わえる店作り。海外からの観光客も多く、時にはお客の半数近くが外国人になることもあるという。

 名物カレー以外にも、サーロインステーキやエビフライなど洋食メニューを揃えている同店だが、名物カレーとセットでのオーダーが多い。名物カレー単品も含め、来店客の70%が名物カレーを食べていくという。

 時代が移り変わっても、創業時からの味を守り、多くのお客に来店し続けてもらえる秘訣を聞くと、「10年先のことはわかりません。目の前のお客さまを大切にして、今日を一生懸命に過ごすことが、明日の自由軒につながると思っています。祖父の気概を忘れず、今日を大事にしていくだけです」と吉田さんは語る。

 ●企業データ

 (株)自由軒/大阪市中央区難波3-1-34/事業内容=洋食レストランを全4店舗運営(2013年7月現在)

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