アポなし!新業態チェック(103)「瑠之亜珈琲」銀座インズ店
●銀座ルノアールが“サードウェーブ”新業態
喫茶店チェーンの老舗、銀座ルノアールが7月、東京・銀座に新業態「瑠之亜珈琲(るのあこーひー)」を出店した。「大人の女性のサードウェーブ」というコンセプトで開発され、メニューや店舗デザインにカフェの要素を取り入れた従来にないスタイルだ。
メニューは、特定の農園から厳選して仕入れた有機栽培のコーヒー豆を、ハンドドリップとカフェプレスという抽出方法を選択してもらい提供する「スペシャルティコーヒー」(730~780円)が最大の特徴である。ほかに、「瑠之亜ブレンド珈琲」(540円)や「水出しアイス珈琲」(680円)、「“たっぷり”カフェ・オーレ」(730円)など、コーヒーのメニューだけでも従来とは違ったバリエーションを展開。ドリンク類では他に「シトラスハニージンジャーソーダ」(700円)や「スムージー」(各種730円)など、コーヒー以外のソフトドリンクも多い。フードには「アボカドシュリンプエッグサンド」(850円)など4種類のサンドイッチのほか、ピザトースト、スープ、サラダといったメニューも導入され、サンドイッチやピザトーストはランチセットとしても提供する。また、カフェに必須のスイーツ系メニューとしては、リンゴを丸ごと1個使った「瑠之亜まるごとアップルパイ」(1080円)が用意されている。
店舗デザインは1960年代のアメリカを意識したという、木製家具やウッドとカーペットの張り分けフローリングなど、従来の同社には珍しい仕様。この6月、代表取締役社長に就任した小宮山誠氏の采配が生かされた新店舗だ。
★けんじの評価
銀座ルノアールは、首都圏だけで直営店約120店舗を展開する本格的な喫茶店のチェーンであり、創業から半世紀以上の歴史を持つ由緒ある喫茶店のチェーンだ。1980年代から90年代にかけて、同様のスタイルを持つ多くの喫茶店が経営環境の変化に翻弄され消えていく中で、むやみに多店舗化を図らず、価格を大きく変えることもなく堅実な経営を続けることで生き残った。そのことは、当時を知る業界人のあいだでいまも語り継がれる外食史の1ページである。
同社の新業態であるこの「瑠之亜珈琲」は、同社の「カフェ・ミヤマ銀座インズ店」の跡地にオープンした。ビジネス客の多い銀座エリアには、同社の店舗が複数存在している。だが、この9月に全面リニューアルを行った「無印良品」やファッションテナントが多い「プランタン銀座」「マロニエゲート」といった商業施設に近いこの立地は、銀座の中でも比較的女性客が多い場所だろう。そうした商圏を背景にして、今回の出店が決まったのではないかと思う。しかし、残念ながら臨店時にはあまり女性客の姿は多くなかった。平日の夕方、空席も目立つ店内には銀座の活気もいまひとつ感じられない。
同社のリリースに掲載されているイメージスケッチと実際の店舗のニュアンスが微妙に異なっているように感じるのは、もしかすると実施設計段階でコストの問題が浮上したのかも知れない。だが、カフェとは雰囲気をつくり上げることが人気を左右する感性のビジネスだ。同社には、サードウェーブという怪しげなトレンドに惑わされることなく、喫茶店ビジネスの本流を貫いてほしいと願う。
(外食ジャーナリスト・鷲見けんじ)
◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期からFFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。顧客の気持ちを外食企業に伝えるべく甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。朝マックとロイヤルホストのカレーフェアをこよなく愛する外食ウォッチャー。
●店舗情報
開業=2015年7月25日/所在地=東京都中央区銀座西1-2、銀座インズ3内、1階