クローズアップ現在:食べ放題、大型焼肉チェーンで進むロボット導入
運搬ロボットや特急レーンを導入して配膳作業を効率化するオーダーバイキングの大型店が脚光を浴びている。導入に先駆けたのは物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」と「ゆず庵」、ワタミの「かみむら牧場」と「焼肉の和民」だ。両社とも導入で得た余力を接客サービスに還元し顧客満足を高めているのが特徴。機械と人手のすみ分けを最適化し、生産性アップと付加価値向上を同時に両立させる戦略だ。いずれも出店ペースが加速している。
●高い生産性と顧客満足
物語コーポレーションでは今年1月からテーブルバイキングの「焼肉きんぐ」と「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」に配膳・運搬ロボットを順次導入、現在ほぼ全店で導入している。同社では2020年1月から実証実験を重ねてきて十分な効果が見込めると判断した。この2業態を導入の対象としたのは、テーブルバイキングとロボットとの親和性が高いからとのこと。同社の加藤央之(ひさゆき)社長はこう語る。
「テーブルバイキングで顧客が価値を感じる部分は、料理を少量ずつたくさんの種類を食べられること。この配膳・運搬の作業を人間ではなくロボットが行うことで、人は接客サービスの部分に配置できることがよく分かった」
同社には「おせっかい」という文化が存在している。「焼肉きんぐ」には「焼肉ポリス」という役割の従業員、「ゆず庵」には「しゃぶ奉行」がいて、彼らが顧客のテーブルに赴き、最も良い状態で食事をしてもらうための案内を積極的に行う。
このロボットは配膳・運搬を1日に300回行うことが可能で、距離にすると8kmとなり、休みなく働く。これによって「おせっかい」に費やす時間が格段に増やすことができるようになった。
また、21年6月期の「焼肉きんぐ」は新規出店とリニューアルを重点的に行い、前期の新規出店が18店舗に対し今期の5月31日にオープンした267号店の羽根店(愛知県岡崎市)で23店舗を新規にオープン、リニューアルは通常年度の3倍に相当する46店舗で行った。
ワタミでは19年の夏から焼肉事業に参入する準備を進めて20年5月に1号店の「かみむら牧場」を東京・大田区にオープン(京急蒲田第一京浜側道店)。126席の規模で、通常営業ができた当時に顧客が1ヵ月に1万人、月商で最大3200万円を記録した。コロナ禍で駅前立地の居酒屋業態の営業状況が厳しくなったことから、特に週末に人口の多い住宅街近くの居酒屋業態を「焼肉の和民」に順次転換。
この両方の業態では共に、特急レーンと配膳・運搬ロボットを導入していて、人間が単純作業を行わないようにし、感情労働を手厚くしている。「焼肉の和民」ではホールスタッフが居酒屋当時の半分に相当する4人程度で作業を行い、売上げは2~3倍で推移している。新町洋忠執行役員焼肉営業本部長はこう語る。
「これらによって『かみむら牧場』は夜の客単価4000円に対し原価率50%、『焼肉の和民』は客単価3700~3800円で原価率45%。これらで利益が出る仕組みをつくった」。21年12月期の下半期に「かみむら牧場」を20店舗新規にオープン、「焼肉の和民」の場合ゆくゆくは120店舗を想定している。
(フードフォーラム代表 千葉哲幸)
【写真説明】
写真2:物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」は今期21年6月期積極的に投資を行い、5月31日にオープンした267号店の羽根店(愛知県岡崎市)で23店舗新規出店(前期15店舗)、リニューアルは通常年度の3倍に相当する46店舗で行った