クローズアップ現在:国民食「ラーメン」の厳しい実情 「1,000円の壁」打破は可能か
ラーメン業界は常ににぎわっている。いかに景気の変動があろうと必ず行列ができる店があり、ラーメン好きは多いし、インバウンドにも大人気だ。しかし今や国民食ともいえるラーメンだが、店側の視点に立つと元気と言い切れないようだ。2024年のラーメン店の倒産件数(負債1000万円以上、法的整理)は過去最高の72件(帝国データバンク)に上り、前年の53件に比べて約3割超となった。人件費や光熱費、原材料コストなどが軒並み高騰する一方、値上げに踏み切れず閉店の道を選ぶ店が少なくないという。
●ラーメン業界に立ちはだかる「1000円の壁」
23年度におけるラーメン店の業績は、「赤字」が33.8%で、「減益」(27.7%)を合わせると61.5%となり、コロナ禍の影響が直撃した20年度の81.0%に次ぐ、過去20年で2番目に高い水準だという。実際、豚肉や麺の小麦、海苔、煮干し、卵、メンマなどスープのだしから麺、具材のすべてにおいて幅広く原材料の価格が引き上がっている。
一方で「ラーメンは庶民の味方」といった“一般常識”が根強いため、なかなか値上げに踏み切れない店側の思いがある。値上げしたとしても1000円は超えにくいという、いわゆる「1000円の壁」だ。1000円の指標は消費者側にもあるらしい。調査会社アスマークの500人への消費者アンケートでは「1000円超えのラーメンを高いと思うか」という質問に、高い(56%)、やや高い(37.2%)を合わせると9割以上の人が高いと答えているという。さらに値上げしたら食べる頻度が減るとの解答は7割に上るという。これでは店舗側は価格転嫁しにくいだろう。
●ラーメン以外は「壁」を突破しているが
しかし考えてみれば、同じ麺業界でも、そばにおいては、ワンコインの立ち食いそば店から1杯2000円超えのそば屋もある。お酒を楽しみながら過ごすそば屋の客単価はさらに高い。
同様に、国民食の一つ、ハンバーガーも学生が通えるファストフードの価格から1000円は超えるのが当たり前になっているグルメバーガーもあり、すみ分けはできている。両者以外にも探せば価格帯の幅を持つ料理はたくさんある。ラーメンだけが不可能となる道理はない。
加えて海外ではラーメン1杯が日本円にして数千円は当たり前になっている。日本においてもインバウンド向けのラーメン店では、1杯3000円超えでも客足は途絶えていない。国内においてもすみ分けができてしまっているのだ。1000円超にしているラーメン店は今までもあるが、一般的な平均客単価は今も700円近辺となっている。
●ラーメンが価格幅を持たせにくい背景
なぜラーメンは、価格幅を持たせにくいのか。
筆者が考えるに、一つにカップラーメンの存在があるのではないか。カップラーメンのクオリティーは高く、名店監修の商品もあり、それでも200円台で食べられる。安価なカップ麺は100円台だ。比べてそばやうどんはカップもあるにはあるが、バリエーションは圧倒的に少ない。
安価で自宅内でも簡単に安く食べられるため、ラーメンはより日常食化している人が多く、外食においても高値を出すことに無意識に抵抗感があるのではないか。
●ハンバーガーが価格幅を持てる理由
また、ハンバーガーに関しては、もともとの素材が「肉」であることがポイントだと考える。一般的な価値観の中に「肉だから高くても仕方ない」といった観点があるのだと思う。特に牛肉を使っていればなおさらだ。さらにハンバーガーにおいては、高さを出したり、フォアグラなどの高級食材を入れたりなど、“視覚的に”豪華さを出しやすい。
さらに食べ方だ。ファストフードの紙の包装から頬張る食べ方と異なり、グルメバーガー店ではナイフとフォークが提供される。明らかに料理、店舗の雰囲気、サービス形態などが価格帯によって異なるため、価格幅に対して客側に違和感は生まれない。
●ラーメン界で取り組める今後について
最近は、1000円の壁の苦肉の策として、麺とスープだけで勝負する具なしの「素ラーメン」を出す店も出つつある。コンビニのローソンでも「スープ激うまシリーズ」として具なしカップラーメンを発売した。思えば「かけそば」「かけうどん」が昔から存在するように「かけラーメン」があってもよいのだ。これまで、店舗側も客側も、業界自体が「チャーシュー」や「煮卵」に固執し過ぎていたのかもしれない。
このように、ラーメン業界もバリエーションを増やして、幅を持たせ消費者の価格の選択肢を増やすことで互いの意識も変わってくるだろう。
また、コンサルタントの立場から見ると、これまでラーメン店は、スープや麺、具材というラーメンの中身にこだわって作り上げる傾向にあったが、外食産業としての業態のバリエーションにはあまり視野を広げていなかったように思う。「カウンター席が中心」「丼と箸とレンゲで食べる」「提供が早い」という定番スタイルから抜け出していくと、価格幅を広げることにもつながるのではないだろうか。
(食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)