食文化のショールーム「日本食レストラン」:中国 急成長続ける外食市場
中国の外食産業は経済成長とともに急成長を遂げ、04年の外食産業の小売総額は、03年より21.6%増で、7486億元に達した。また05年の外食産業の小売総額は04年より17.7%増で、8887億元となっている。00年から14年連続で2桁成長している。中国調理協会が発表した「飲食業白書」によると、10年までに2兆元前後に達する見込みだ(表1)。
◆チェーン経営の台頭
もともと中国では地理的環境や歴史的な背景によって、小規模な単独店が中心だったが、1987年ケンタッキーの参入、そして90年のマクドナルドの参入によって外食チェーンが徐々に浸透した。
外食チェーンは日本と同様に直営またはフランチャイズの2形態がある。最近、中国の外食企業はフランチャイズの展開を、(1)早急にブランド確立できる有効手法(2)外部資本の利用により短期間に低いコストでの事業拡大が可能(3)リスクが少なく安定的なロイヤルティーの収入が見込める、といったメリットから強化している。
しかし、フランチャイズの経営管理はシステム化が非常に重要視され、直営店よりチェーンを維持するパワーが必要なため、依然として直営店による出店方式の伸び率がフランチャイズより高くなっている(表2)。
◆外食頻度とタイミング
中国では大きな円卓を囲んで中国料理店で会食をにぎやかに楽しむ。フォーマルな場合は、豪華な料理を出せるレストランで行われるのが普通であり、また、春節(旧正月)や中秋節などの祭日は外食することが多い。中国商務省がまとめた07年の春節の商戦の結果によると、2月18日から24日までの1週間の飲食業売上高は昨年より18%増で、うち内陸の河南省や垂慶市、東北の黒竜江省は2割超伸びた。家族で外食を楽しむ新しい習慣は定着しつつある。また、昔は冠婚葬祭のための家で行う宴会も、レストランなどへと着実にシフトしてきている。
正式の統計ではないが、調査によると中国では週1回以上外食する人が66%であり、日本の57.2%より高い結果となっている。
また、外食のタイミングについて、1日の3食すべてで利用しているのは中国がもっとも多い。
それ以外に、中国では「家族と一緒に」「友達との集まり」といったタイミングで外食することも多い(表3)。
◆消費者志向
以前は中国の外食店は零細で小規模な地元の店舗が多く、衛生条件も好ましくなかった。しかし、近年、多くの外資外食企業の進出や中国国民の海外観光増によって、外食店舗への認識が変化してきており、衛生を重視するようになってきた。このため外食店舗を選択する際、料理はもちろん、店舗の環境、つまり内装、設備、食器、従業員の清潔感、スタッフのサービスレベル、座席のすわり心地などを総合的に評価するようになっている。
一方、料理に対しても、視覚、味覚、嗅覚の満足を求める以上に、健康志向がますます強くなってきている。高繊維、低カロリー、低脂肪、低コレステロール、減塩、低糖、有機、無農薬の料理を重視するようになってきている。
◆大きい法人需要と若者市場
中国社会は人的なつながりが非常に強い。法人需要の会食・宴会の需要は非常に大きなマーケットとなっている。
また、現在の若者は外食する頻度が高くなってきている。80年代初から「1人っ子政策」の時代で生まれた若者は、流行に非常に敏感な消費者だ。かれらは、新しい食品消費の先駆者でもあり、飲食に保守的な慣習を持たない。このため外国の食品をどんどん取り入れている。また、主婦は1日3食、子どもの晴好にお金を払って便利を買い、楽しみを買い、健康を買うという傾向がある。「子どもに小さいころから、中華料理だけではなく、日本料理、西洋料理もあることを教え、広い世界を食を通じて見せたい。またいい生活をするには頑張って仕事することは重要であることを教えたい」と多くの中国の若い母親はそう考えているようだ。
※中国は1970年代の前半から1家庭で、子ども1人だけ産むように提唱し、70年代の末ごろには「1人っ子政策」を憲法に入れた。両親と双方の両親の合計6人が1人の子どもを大事に育てるため「小皇帝」(シャオホワンディー)と揶揄(やゆ)されている。
◆日本食のニーズ
中国の北京、上海、広州、大連などの都市では日本レストランが数多く出店されている。以前は「寿司」「刺し身」「天ぷら」などの店が主体だったが、最近は「居酒屋」スタイル、「洋食パスタ」「カレーライス」「鉄板焼き」など多様化している。
運営実態として、多くの日系外食企業は消費力のあるローカル消費者をターゲットとしているが、全体的にみると現地の消費事情にあわせて価格設定が行われ、客単価は日本の水準に達していない。ただし、日系企業が集中しているエリアへ出店している企業は日系駐在員を含めた日本食になじみのある消費者をターゲットとしている。これらの店舗における価格設定は日本とほぼ同水準だ。
中国の外食市場を概観すると、日系外食チェーンが中国外食市場に参入するに当たり、客単価から見て2種のカテゴリーに分けられる。
(1)ディナー需要を中心とした場合=120~150元
(2)ランチ需要からディナー需要までを対象とした場合=30元前後
(表4)
◆日本食への認識・主要消費層
居酒屋タイプの日本料理店では、「食べ放題」というシステムを採用しているところが多く、100~200元でメニューにある料理をいくらでも注文することができる。この方式は中国人に広く日本料理を紹介するという結果にもなり、寿司や刺し身を好んで食べる中国人も増えてきている。
日本料理は、刺し身が一昔前までは、「ションユイビュン」といわれたが、最近では、中国の海鮮料理店などでは、堂々と「刺身」と漢字でそのまま標示している。すでに日本語がそのまま中国語と化しているのだ。ただし実際の刺し身の内容は、日本のように多様ではなく、サーモンの刺し身(サンウエンユイツーシュン)とロブスター(ロンシアーツーシュン)が多い。日本では、刺し身の代表格はマグロ・トロであるが、中国での刺し身の代表格は、サーモンだ。
日本食は高級料理との印象があるため会社の接待に利用されたり、流行やヘルシーなイメージから若者に支持されるなど一般庶民に広く認知されている現状にある。
◆日本食の供給サイト
日系外食企業による中国市場展開は、2000年以降は増加の一途をたどる。特に個店ベースでの出店も増えつつある現状にある。日本企業は1店舗から数店舗程度を実験的に出店しているが、チェーン展開している日系企業としては、ファストフードである吉野家、ラーメン居酒屋としての重光産業が有力だ。現在、上海市内に日本食レストランは200店ある。
日系レストランは、一般に「日式○○」と呼ばれ、いわゆる日本料理から、焼き肉、ラーメン、お好み焼き、ファミリーレストランなど幅広い分野で進出している。価格帯でみると、日本人をターゲットとした比較的料金の高い日本料理店と、中国人も対象とした比較的大衆向け料金の専門店の2系統に分かれている。
日本食の供給側は、日本人によるものは一般的だが、最近中国人経営による店舗も増えている。
※資料出所=農林水産省「我が国の外食産業の海外展開支援マニュアル-中国編-07年3月発行」