メニュートレンド:ワンコイン定食で集客倍増 「肉屋の正直な食堂」

2009.04.06 355号 02面

 桜も咲き暖かな春が訪れたが、サラリーマンたちの懐具合が温かくなる様子はない。遠のく客足を戻すためには思い切った施策が必要だが、圧倒的なお得感訴求で快進撃をみせているのが「肉屋の正直な食堂」の「ワンコイン定食」だ。特筆すべきは、目玉商品ひとつで、業務全体に好影響を与えている点。不況に強い体質づくりのエッセンスがふんだんに盛り込まれている。

 500円玉1枚で満腹になる「ワンコイン定食」の内容は週替わり。通常メニューでは肉150gのところ100gと少なめだが、ほかは750円~の通常メニューと変わりはない。もちろんご飯お代わり自由だから、空腹は十分満たすことができる。これで250円以上も節約できるのだから、圧倒的なお得メニューである。「ワンコイン定食を始めたらお客の数が2倍になりました。お客さまの2人に1人は注文します」と(株)八百八町代表取締役COOの加藤敏也さん。

 大学、予備校、中小オフィスが集まる神田神保町店では、昨年11月から導入。「導入前は1日の客数100人ぐらいだったのが、1ヵ月後には200人に。最高で300人までいったこともあります。その日はワンコイン定食が230食出ました」と店長の鎌田さん。なんと7割のお客がワンコイン定食を注文したのだ。メニューは週替わりで「豚肉のスタミナ焼き」「豚肉の野菜鍋」「豚肉のキムチ焼き」「豚肉のニラ玉炒め」「豚肉のしょうが焼き」の5種類。同店では豚肉料理だけの展開だが、どのメニューをワンコイン定食にするかは店舗ごとに裁量が与えられている。

 「ワンコイン定食」導入については現場からは「手数だけ増えて売上げを下げるだけ。原価率も上がってしまう」と猛反対の声が上がった。しかし「やる前にダメだと決めつけるな!」と一喝。その結果は1ヵ月たらずで明らかとなった。これまでランチタイムのピークは昼の12時から12時45分くらいまでに集中していた。それがワンコイン定食を導入後は11時30分から午後2時すぎまで満席が続き、その後も閉店時間まで客ゼロになることなく入り続けている。客単価は下がったが、そのお得感はお客に伝わり、リピート増となって返ってきている。これまで平均月商400~450万円だったが、一気に550~600万円までになった。

 その効果は客数倍増、売上げ増だけではない。特定のメニューに集中するため、かえって業務が効率的になり、店員を増やさなくてもよいし、かえってお客を待たせずに提供できるようになったという。さらにサイズを小さくしたことで、小腹が空いたときの軽食としてランチや夕食以外の利用へとつながっている。注文が集中する目玉商品のメリットがこれほど生かされた例は珍しい。

 この成功は、さらなる付加価値創造のヒントとなる。ワンコイン定食は鶏肉または豚肉のメニューでの提供だったが、プラス100円の600円で牛肉でのメニューも導入。また逆に肉の量を1.5倍に増やしたメニュー(980円)も開発し、どちらも好調という。ボリュームの変化によりお客の潜在的なニーズ、新しい価値を掘り起こした好例といえよう。

 同社は同様のアイデアを系列居酒屋の「八百八町」にも応用している。小さなアイデア、ヒットを1つで終わらせることなく、波紋のように広げていき相乗効果を高めていっている。この臨機応変さこそ、もっとも不況に強い体質なのではないだろうか。

 ◆店舗概要

 「肉屋の正直な食堂」/経営=(株)八百八町/店舗所在地(神保町店)=東京都千代田区神田神保町1-42-4 鉄建神保町ビル1F 電話03・3233・8088/開業=2007年10月/営業時間=午前11時~翌1時(年中無休)/坪数・席数=17.2坪・22席/客単価=680円

 ●愛用食材:「もみだれ」 (有)肉の大安(東京都練馬区)

 週替わりのワンコイン定食でも人気の高い「豚肉のスタミナ焼き」で使用。ワンコイン定食の週では、一食30ccの使用で2日で20kgを消費するというから驚きだ。独特な甘辛い味付けが特徴。肉にかるく塩をふったのち、本品をかけるだけで、十分おいしく仕上がる手軽さが魅力だ。唐辛子と黒コショウのダブルのスパイシーさで汗をかきながら食べ、ごまやニンニクの風味で食欲とスタミナがわき上がってくる。ニラ、玉ネギ、ニンニクなど香味のある野菜と一緒に炒めるだけでスタミナ定食の出来上がり。

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