外食史に残したいロングセラー探訪(30)アカシア新宿本店「ロールキャベツシチュー定食」

2009.06.01 358号 12面
「ロールキャベツシチュー定食」

「ロールキャベツシチュー定食」

「昭和」レトロといった雰囲気の店構えの新宿本店

「昭和」レトロといった雰囲気の店構えの新宿本店

 新宿駅東口、スタジオアルタの裏側に位置する路地にある「レストランアカシア」は、新宿が若者文化の中心であった1960年代に開業した。8割以上のお客が食べるという「ロールキャベツシチュー」は、トマト風味でもコンソメ仕立てでもない、ホワイトシチューの独特な味わいで、半世紀近い歴史を持つロングセラーメニューである。

 ステーキやハンバーグ、グラタンなどの洋食を出すレストランとして、1963年にオープンした「アカシア」。(有)アカシア代表取締役鈴木康太郎氏によると、「ロールキャベツシチュー」がメニューに加わったのは、店がオープンした後、2週間ほどたってからだという。

 創業者である先代の鈴木邦三氏は、開店直後のお客の反応から、「気取った料理だけでなく、自分らしい料理を出そう」と、ロールキャベツシチューを取り入れたという。また、皿に盛ったライスでは食べづらく、しかも冷めやすいので、ご飯をおいしく食べられるように丼で提供することにした。こうして、ロールキャベツシチューと丼ご飯を組み合わせた、アカシアの名物メニュー「ロールキャベツシチュー定食」が誕生。当時の値段は130~150円ほどであったようだ。

 もともと、キャベツ好きであったという邦三氏だが、このロールキャベツシチューは「おふくろの味」であり、特に強い思い入れがあったようだ。

 鈴木氏によると、「私の祖母、武子は横浜育ちだったので、外国人の家庭などで洋食を知ったのでしょう。アイスクリームまで手作りしたりと、子どもたちのためにさまざまな工夫をしていたそうです」とのこと。

 まだまだ肉が高価で手に入りづらかった時代、育ち盛りの子どもたちに少ない量の肉でも満足させるには、キャベツでカサを増したロールキャベツはまさにうってつけの料理であった。さらに、日本風の淡泊な味付けではなく、シチュー仕立てにすれば満腹感もあり、少々濃い味付けのため、ご飯も進む。こうした母親の愛情から生まれた料理をアレンジしたレシピは、46年たった今も、ほとんど変わっていない。

 「この味を楽しみに訪れてくれるお客さまがいるので、『変えられない味』なのです」(鈴木氏)

 タネは、豚・牛肉の合いびき、玉ネギ、塩、コショウだけ。これを包むキャベツは、外・中・内側と大きさの異なる3枚を組み合わせて使うという。そしてシチューには、ロールキャベツを煮込んだスープを使っているので、キャベツの甘みやうまみのある、優しくて深みのある味わいに仕上がっている。

 「これからは特に、一人暮らしのお年寄りでも気楽に、ゆっくりと利用できる店でありたい。そして、決してお客さまを裏切らない店であり続けたいですね」と鈴木氏。半世紀近く変わらない味同様、お客に対する優しさも受け継がれていくのだろう。

 ◆店舗データ

 「アカシア新宿本店」/経営=(有)アカシア/店舗所在地=東京都新宿区新宿3-22-10/開業=1963年6月/客単価=1050円/平均月商=1200万円/羽田空港第2ターミナル店、東京駅グランスタ店、ドイツ店2店舗を展開中

 ○キャベツ2Lを1日60個

 アカシアでは、ロールキャベツの要であるキャベツは産地などを特に指定はせず、その時、旬にとれたものを仕入れているため、1年を通して茨城や愛知をはじめ、さまざまな産地のキャベツが使われている。1日約250食分出るという新宿本店用には、1日約60個強のキャベツが使わる。2Lサイズを指定し、包みやすいように、ある程度の大きさがあり、葉がしっかりしたもの、そして穴などの空いていないものを選ぶ。

 季節や天候などによって味が変わるのはもちろんだが、鈴木氏によると、同じキャベツでも内側の葉の方が甘みが強く、さらに芯には独特のうまみもあるとのことだ。

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