伊勢丹新宿店洋菓子バイヤー・上野奈央氏に聞く デパ地下から広がるスイーツ活性化戦略

2010.05.03 371号 05面
“スイーツファンの聖地”として知られる伊勢丹新宿店

“スイーツファンの聖地”として知られる伊勢丹新宿店

 スイーツ市場における強力な販売チャネルとして、さらには最新トレンドの情報発信地として不可欠なのが、大手百貨店の食料品フロア“デパ地下”だ。人気パティシエやショコラティエによる創作ケーキや限定チョコレートをはじめ、ギフト需要に対応するアソートアイテムなど多彩な品揃えで知られ、連日盛況。週末以外でも長蛇の列ができることもしばしば。中でも伊勢丹新宿店は常時30前後のブランドショップを展開し、国内有数のハイレベルな品揃えで「スイーツファンの聖地」として知られる。洋菓子バイヤーの上野奈央氏に、スイーツ市場の動向と百貨店の活性化への取り組みなどについて聞いた。

 チョコレートや焼き菓子を含むスイーツ全般の近年の大きな特徴として、ギフトや土産における消費者心理の変化が挙げられる。現在、スイーツ市場では展開ショップのブランド化が浸透しており、パティシエの個性も含めて店舗特性が多様化している。この多様化の中で自分のお気に入りのブランドを探し、さらには「自己表現」の一つとして親しい仲間に贈るという購買図式が広がりつつある。

 伊勢丹でのスイーツの売上げ内訳をみても、この動向が顕著にわかる。従来の中心であった歳暮・中元に代表される儀礼的なギフトに代わり、日常的なパーソナルギフトの構成率が上昇し、義理でのプレゼントではなく、「親しい仲間に本当に贈りたいから」という理由付けが明確になっている。不況の影響による儀礼ギフトの減少、歳暮・中元の停滞など多くの要因を含んでいると思うが、ことスイーツに関しては購買理由に心理的な側面が加わっていることは確かだろう。

 デパ地下におけるスイーツ売り場の使命の一つは、広い売り場と多彩なショップ展開を通じ、斬新なトレンドの提案や選ぶ楽しみを提供することにあるだろう。共通することは、ほかにはない「楽しさ」を味わってもらうこと。言い方を換えれば、百貨店にまで足を運ぶ価値を具現化することが大切だ。嗜好の多様化、トレンドの急激な変化が今後も予想される中で、国際的な流れも視野に入れたスイーツならではの魅力を発信したい。

 その取り組みとして伊勢丹新宿店では、多彩な切り口でのオリジナルフェアを定期的に開催している。全国の人気アイテムを集めた「チーズケーキフェア」のほか、素材や新潮流に着目した限定フェアも独自に企画中だ。

 中でも昨年開催した国産素材を題材とした限定フェアは、当時高まっていた国内食料自給率への関心とリンクして、高い評価を得ることができた。個人的には、素材を製造する第一次生産者の地位は今以上に向上されるべきだと考えている。上質な素材があってこそのスイーツのレベル向上であるし、パティシエと同等の努力を第一次生産者も行っている。将来的には素材のブランド化による認知向上にも取り組みたい。

 さらには、百貨店として多様なニーズに対応できるブランド展開・品揃えも必須だろう。いかなるお客さまがいらしても、個々のニーズをくみ、楽しく満足して買い物をしてもらうことは、デパ地下として最低限の義務だ。伊勢丹ではファミリー向け、単身者向けを問わずギフト需要を含めた多彩なコンセプトのブランドを用意しており、あらゆる層や目的に応じた店舗展開を重視している。

 欧米に端を発したスイーツ文化は、国内でも浸透している一方で、消費者心理の変化や嗜好の多様化など、その特性が変化しつつある。チャネルとしては取り寄せスイーツとしてのネット通販が市場として確立しているし、今後も確実に伸びるだろう。デパ地下としてこの文化レベルをさらに向上できるよう、今後も努力していきたい。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら