外食史に残したいロングセラー探訪(47)とんかつ 銀座 梅林「スペシャルカツ丼」

2011.01.03 382号 16面
スペシャルカツ丼以外に、カツ丼(980円)、特製ヒレカツ丼(2000円)もある

スペシャルカツ丼以外に、カツ丼(980円)、特製ヒレカツ丼(2000円)もある

1929年に店舗は現在の場所へ移る。店のわきには明治時代に作られた路地が今も通っている

1929年に店舗は現在の場所へ移る。店のわきには明治時代に作られた路地が今も通っている

 銀座で初めての豚カツ専門店として、1927年に開店した「とんかつ 銀座 梅林」。三味線をひく豚の絵に、講談師の五代目一龍斉貞丈が名付けた「珍豚美人(ちんとんしゃん)」は同店の愛称として長年親しまれている。

 戦後間もなくに登場した「スペシャルカツ丼」は卵の2つの食感を楽しめる、その名の通りにスペシャルな丼メニューとしてファンが多い。

 「とんかつ 銀座 梅林」の創業者である澁谷信勝氏は開店に当たり、薬剤師であった経験を生かして、ウスターソースとは違った、豚カツに合ったとろみのあるソースを開発した。これはリンゴや玉ネギなどの果物と野菜を使って甘み、とろみを付けたオリジナルの豚カツソースである。

 また、それまでは1枚に開いて揚げていたヒレカツを1口サイズにカットした「ひと口カツ」を考案したり、食パンに挟んだ「カツサンド」をメニューに取り入れるなど、澁谷氏は柔軟な発想の持ち主であったようだ。

 そして、戦後に生まれた「スペシャルカツ丼」も、澁谷氏の開発したメニューの1つ。ロースカツの脂身をカットして卵でとじた上に、さらに黄身を割らずにもう1つ卵をのせることで、見た目にもボリューム感のあるスペシャルカツ丼が誕生した。なお、現在はロースではなくヒレカツを使い、よりヘルシーに仕上げている。

 カツをとじる卵と上にのせる卵の火の通り具合は絶妙。上の卵は半熟に仕上げてあり、トロリとした黄身をヒレカツとご飯にからめて食べることができる。

 「卵の火の通し具合には、特に気を使っています。とじた卵の堅さによっては、例えば上にのせる卵の位置がきれいに中央にこなくなってしまう場合もあります」と、店長の小森恒夫氏。肉と一緒にとじた玉ネギには、シャキシャキとした食感が残るぐらいまでに火を通している。

 たれには鰹節でとっただしではなく、豚のスジ肉と玉ネギを半日以上かけて丁寧に煮込んだスープを使用しており、いわゆる“そば屋のカツ丼”よりも、味なじみがよい。たれの味はやや甘めだが、しつこくなくあっさりとしている。

 「油は綿実油を使いカラッと揚げてあり、たれ自体の味もあっさりとしているので、ひと口目は『物足りないのでは?』と思われるかもしれません。最初のインパクトは弱いものの、最後までずっとおいしく食べられ、なおかつ胃がもたれることもないと好評です」(小森氏)

 創業から80年以上も続く老舗だけあって、親子三代の常連客も少なくない。そうした常連客の味に対する厳しい意見も、昔の味を知るファンならではの愛情と真剣に受け止めて、これからも大切に味を守っていきたいという。

 ●店舗データ

 「とんかつ 銀座 梅林」/経営=(有)梅林/所在地=東京都中央区銀座7-8-1/開業=1927年

 ●こだわり食材

 生パン粉:素材の豚肉の味を邪魔しないように、糖分を抑えたオリジナルの生パン粉を使う。

 綿実油:綿実油だけを使うことでカラッと揚げることができる。

 豚肉:茨城産や栃木産の豚肉を中心に、その時によって軟らかく、おいしい豚肉を求めている。

 コメ:「カツ丼はご飯のうまさも大切な要素」と小森氏。新潟産コシヒカリを使用。ベタベタにならないように、歯切れのよい食感を大切に炊き上げている。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら