外食史に残したいロングセラー探訪(65)聘珍樓「肉包(にくまん)(大)」

2012.07.02 400号 26面
店頭販売1個430円、多い売店(中華街聘珍茶寮)では1日に2000個売れる

店頭販売1個430円、多い売店(中華街聘珍茶寮)では1日に2000個売れる

歴史と伝統を醸し出す横濱本店

歴史と伝統を醸し出す横濱本店

 横浜中華街の食べ歩きの定番ともいえる中華まん。有名店から専門店が並ぶこのエリアは、日本一の激戦区といってもよい。そのなかで味、ボリュームともに人気を博しているのが聘珍樓のまんじゅう「肉包(大)」だ。創業1884年、現存する日本最古の中国料理店でもある同店が提供する肉包は、歴史と伝統だけでなく安全と健康にも気を配ったこだわりのロングセラー商品といえよう。

 ●手間暇を惜しまない職人魂 素材にこだわった自然のおいしさ

 肉包が同店に登場したのは60年代。聘珍樓・横濱本店で当時は点心の一つのまんじゅうとして提供されていた。それが70年代に入りテークアウトを希望するお客が増えたため、店頭販売を開始し、その人気は今なお衰えることはない。売れ行きが伸びるに従い、商品がレストランの厨房だけではまかないきれなくなり1980年、店頭販売用にまんじゅう工場ができた。まんじゅうを中心に点心(焼売など)、月餅、中華麺、焼き物などの出来たてを売店に届けている。

 工場担当者の伏見香織さんは「すべて手作りでしたので、土・日や年末などの繁忙期は、商品が間に合わなかったり、売店からの欠品連絡などが頻繁に入り、仕込み時間もなく深夜1時まで勤務したこともたびたびありました。まんじゅうを蒸し篭から出し木製番重に詰め売店へ持っていくのですが、手を蒸気でよくやけどしたのを覚えています」と当時を振り返る。

 肉包は具も皮も材料と食感にこだわりを持っている。保存料、化学調味料、合成着色料を使用していないのも特徴の一つで、食材から引き出される自然のおいしさを堪能できるのが人気の秘密といえよう。化学調味料などは1995年からすべての商品に使用しないという、安全と健康を第一に考える同店ならではの取り組みの一つだ。

 食材を紹介すると、甘く弾力のある皮は国内産の小麦粉、ジューシーで肉汁を滴らせる、粗びき豚肉も国内産を使用。その他にも椎茸、タケノコ、玉ネギなど、野菜は一つひとつが、素材の食感、味を表現するため大きめにカットしている。特に水クワイのシャキシャキ感はくせになるほどだ。味付けは特製オイスターソースをはじめ香味油、みりん風調味料、魚醤など……、そして、各食材から生まれるうま味だろう。

 通常加工食品の工場といえば、機械化の効率性を重視する傾向にあるが、同店では、その日の温度や湿度の変化に合わせ、生地の発酵時間の調節から、調味料の調合など職人の手によるところが多い。「手間を惜しまず、素材の微妙な違いを判断する職人がいなければ聘珍樓の味は作れません」と伏見さんは話す。

 同店は2009年に中国・広東省政府から広東料理全世界推進発展功労者の称号が与えられている。これは中国国外では初めてのこと。また、主要百貨店で点心の販売を行い、自宅でも同店の商品が味わえるなど、多くの人にその味は認められている。それは手間暇を惜しまない職人のこだわりが商品を通じてお客に伝わっているからではないだろうか。

 ●企業データ

 (株)聘珍樓/本社所在地=横浜市港北区新横浜2-2-8 NARA BLDG.28F/事業内容=中国広東料理レストランの経営。菓子・食料品の製造販売。その他フードビジネスの経営。レストラン国内9店舗・海外7店舗(香港6店・タイ1店)、百貨店18店舗。(2012年5月現在)

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