ニューヨーク通信 外食ビジネスの新発想(97)BentOn Cafe 自分好みの弁当をカスタムメード
◆新しい形の弁当をニューヨークから発信 「バランスの取れた食事」をアピール
今年2月から金融街で始まった日本の弁当オンデマンド店–メーンのホットミールを2種、サイドのコールドミールを4種選んで、自分好みの弁当が食べられるシステムだ。
考えてみれば、弁当は食べたいものと食べたくないものが混在していても、不満に思うことはなかった。こういうものと思っていたふしがある。しかし、これでは食べたいものを自分で選択したいアメリカ人には好まれない。オンデマンドは、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、食べたいものだけを選べる弁当を提供し、好評を得ている。(外海君子)
●下町の弁当屋の息子がNYの金融街へ
物事というのは、動かないことには進んでいかない。動くと、何かが始まる。
「べんと・おんカフェ」の社長、古川徹さんのストーリーもまさにその通りだ。生まれは三世代続く東京の下町の弁当屋。米国の大学に留学中、実家が店を拡大するということで呼び返され、4年間手伝った。事業も軌道に乗り、さあこれからどうしようということになった時、たまたまテレビでニューヨークの弁当屋の話を見る。古川さんは、翌日、さっそく当の弁当屋に電話をかけ、無給でいいから働かせてほしいと売り込み、ニューヨークに向かい、オーナーのところに居候して働き始める。一生懸命な古川さんの意欲にオーナーもほだされたのだろう。NYに来て2週間後に店を買わないかと持ち掛けた。古川さんはすぐさま日本に戻り、資金を調達してNYへ。これが同店の始まりだ。
当初は、引き継いだ弁当業をそのまま操業、日系企業相手に弁当の宅配をしていたが、リーマン・ショックの後、徐々に日本人駐在員の数が減っていき、在NY日本人でなく、現地の人を相手に市場を開拓していく必要に迫られるようになった。
●好きなものを自分で選択できる 3150通りの組み合わせ
アメリカ人が弁当に求めるものは日本人と違う。日本人は、「安さ」を求めるが、アメリカ人が求めるものは、主に二つ。一つは、「食べたいものだけを少し余計にお金を払ってもいいから食べたい」ということ。そして、もう一つは、「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく食べたい」ということ。
そこで生まれたのが、お仕着せの弁当でなく、好きなものを自分で選択できるシステム、弁当オンデマンドだ。金融業のひしめくウォール街界隈(かいわい)に店を出した。ここなら、金融マンたちが昼を求めて外に出向く徒歩圏内にある。
7種類あるメーンのおかずから2アイテム、12種類ある野菜系のサイドのおかず(ご飯も含む)から4アイテム、計6アイテムを選び、特製の6マスの弁当箱に詰める。3150通りの組み合わせの可能性があるということだ。日替わりアイテムは、そのうちの3割を占めるから、毎日来ても違う弁当を食べることができる。何を選んでも、一律、税抜き9$99¢。
人気のメーン料理は、「サーモンの照り焼き」や「鶏の唐揚げのネギソースあえ」。味付けは、純日本風だ。
一方、野菜系のサイドのおかずは、サラダものが目立つ。ご飯は、白米や玄米の他、寿司飯や、炊き込みご飯もある。ご飯の好きな日本人は、2マス分ご飯を選ぶ人もいる。ベジタリアンは、メーンも、照り焼き豆腐や野菜の蒸し煮を選べばよい。あらゆる嗜好に対処するシステムだ。
新鮮な野菜サラダを選んで詰めた弁当は、カラフルで食欲をそそるし、いかにも体に良いという感じが身に染みる。
●ヘルシーという概念を具現化したような弁当
アメリカではヘルシーというと、低脂肪とかロー・カロリーとイコールで結び付けられがちだが、本来はやはりバランスの良い食事というのがヘルシーな食事の基本といえるだろう。同店の売りは、 それこそ「バランスの取れた食事」。いろいろなものを6種類選ぶことで、自然とバランスのいい食事ができる。ヘルシーという抽象的な概念を具現化したような弁当だ。
古川さんは、サンドイッチの「サブウェイ」の弁当版を目指し、これから米国内で店舗を増やし、将来は、NY発の新しい弁当を日本に持って帰り、日本の弁当のイメージを変えたいと考えている。
◆人気メニュー5
「サーモンの照り焼き」
「鶏の唐揚げのネギソースあえ」
「ケールとパプリカのサラダ」
「紫キャベツとカリフラワーのサラダ」
「ルッコラと豆のサラダ」
●事業データ
べんと・おんカフェ(BentOn Cafe)/所在地=123 William Street New York NY/開業日=2015年2月/営業時間=月~金 午前8時~午後9時、土 午前11時~午後10時、日休/平均客単価=11~12$