外食の潮流を読む(62)エー・ピーカンパニーの試みに見る、アフターコロナの販売チャネル戦略

2020.08.03 498号 11面

 「塚田農場」を主力業態とするエー・ピーカンパニー(以下AP)はしばらく業績が低迷していたが、昨年7月から回復基調を示していた。しかしながら、新型コロナウイルス禍である。この4月と5月は全店休業にして、6月1日から営業を再開した。同社は決算期が3月であることから、今期に入っていきなり2ヵ月間ほとんど売上げがない状態となった。

 注目すべきは、その間EC(通信販売)を軸に積極的な販売チャネル拡大に挑戦していたことだ。

 4月9日 「Oisix」と共同で一般に食品を宅配販売、4月15日から。

 4月13日 コロナ禍休業による余剰食材を一次産業支援の事業として4月14日から本格始動。

 4月23日 「おうち塚田農場 家飲み便(おつまみの通信販売)」を受注スタート。

 4月27日 鮮魚居酒屋「四十八漁場」で取り扱う予定だった食材を通販。

 5月15日 ECによって、地鶏を100店舗使用分の16%を販売したことを報告。

 5月20日 医療従事者に「弁当無償提供5000食」を目標にクラウドファンディング開始。

 5月21日 「家飲み便」を都心限定だったものを本州26都道府県に拡大、5月22日から。

 APの最大の特徴は使用食材にこだわっていることだ。2003年の当時、代表の米山久氏が「ありきたりじゃない新・外食」を追求している過程で、宮崎県日南市の地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」と巡り合ったことに端を発する。これを安定供給するために現地の生産者と協調して生産拠点をつくり、この鶏肉を東京はじめとした居酒屋「塚田農場」に届ける仕組みをつくった。このモデルは鮮魚分野でも開拓した。そして、「食のあるべき姿を追求する」というミッションを打ち立て、食品の生産(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)に至るまでの全てを一貫して手掛ける独自の六次産業化ビジネスモデルを展開するようになった。これを「生販直結モデル」とうたい、ここに多くのファンが存在している。

 コロナ禍によって飲食業の多くが「テイクアウト」「デリバリー」を手掛けるようになった。APでは14年7月に新規事業として宅配弁当の「おべんとラボ」を立ち上げ、15年7月1日に塚田農場プラスという商号で法人化している。それが20年3月期連結決算の売上高230億円のうち約20億円を占めるほどに成長した。これが今回のECを担っている。また、同社のさまざまなブランドで使用している食材で定食を提供する「つかだ食堂」を立ち上げて、5月15日から既存店を業態転換して展開をしている。

 APがブレないのは、「生販直結モデル」であるからだ。だから、弁当事業も短期間に大きく成長することができて、ECを軌道に乗せた。「アフターコロナ」「ウィズコロナ」時代は、軸足が定まった、販売チャネルの多様化が求められることであろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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