外食の潮流を読む(75)コロナ禍をプラスに引き寄せて、成長する「ときわ亭」の慧眼

2021.09.06 511号 15面

 近年の飲食業界を「新業態」という視点で見ると、最も衝撃的な出来事は「0秒レモンサワー」が登場したことであろう。テーブルの上に取り付けられたタップから飲み放題でレモンサワーが出てくる仕組みと、不動の人気最上位にある焼肉が融合することによってたちまち大ヒット業態となった。この草分けである「0秒レモンサワー仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」では、このコロナ禍でも力強く歩みを進めている。

 まず、出店力が際立つ。1号店は2019年12月開店の横浜西口店だが、1年半が経過した今年6月末で23店舗となっている。これからも月4店舗のペースで出店していくという。21年11月期で50店舗となる予定だ。総店舗数のうち約3分の1が直営店である。直営店の場所は、展開エリアの教育店舗の位置付けであり、それに加えて中核都市といわれる所、例えば、大宮、船橋、柏に出店している。こうして私鉄沿線やロードサイド出店のブランディングを行っている。

 店舗規模は30坪前後が理想という。投資回収が効率的で店の活気感もつくりやすい。顧客は従業員に会いに行くのを楽しみにしていることから、顧客の顔と名前が一致する店となると、この規模が限界、と想定している。

 キャンペーンも大胆である。新規オープンでは大抵オープン初日から「0秒サワー」500円(税込み、以下同)を2週間無料に、次の2週間は「塩ホルモン」418円を無料にしている。一般的には、無料の告知のあるチラシを持ってきた人を無料にするものだが、同チェーンでは、来店したお客のすべてを無料にしている。レモンサワーと塩ホルモンを無料にすると売上げは通常営業に対して5万~6万円下がるが、過去の実績値では、そこから右肩上がりで大体月商1000万円ぐらいになるという。

 同チェーンを展開するGOSSOはこれまで大都市戦略をとっていた。人が集中している所に出店するビジネスということだ。それがときわ亭を展開することによって、中核都市やローカルに出店するようになった。これはコロナ禍がプラスに影響したものだ。顧客が都心ではなく地元で飲食をするようになり、これらの立地の収益はいい。

 同社代表の藤田建氏によると同社のマーケティングの考え方は「なくてはならない存在になろう」ということだ。地域密着になればなるほど「なくてはならない存在」が達成しやすい。顔も名前も覚えやすい。すると顧客は楽しいし働く仲間もうれしい。CXとEXが両立しやすい。そこで「郊外型、地方都市の方がいい」という確信を深めている。

 24年段階で当初は200店舗を想定していたが、少しスピードを落とす発想に切り替えた。加盟店が月1店舗、直営が年間6店舗で年間18店舗、このペースを続けていきながら、150~200店舗を目指したいとしている。加盟店のオーナーたちは増店を希望していて、同社としてはIPOも視野に入れていくという。コロナ禍の中で新しい企業体が育ちつつある。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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