クローズアップ現在:進化し続けるハンバーガー なぜ日本人はハンバーガーが好きなのか

2024.08.05 546号 09面
東京・東上野「American Diner ANDRA」の調理の様子。同店のハンバーガーはスマッシュバーガーの手法で焼き上げている。押しつけて焼くことでパティがバンズからはみ出る大きさに仕上がり、カリッとした独特の香ばしさが出るという(「外食レストラン新聞23年6月号メニュートレンド」より)

東京・東上野「American Diner ANDRA」の調理の様子。同店のハンバーガーはスマッシュバーガーの手法で焼き上げている。押しつけて焼くことでパティがバンズからはみ出る大きさに仕上がり、カリッとした独特の香ばしさが出るという(「外食レストラン新聞23年6月号メニュートレンド」より)

「MOM'S TOUCH」のサイバーガー

「MOM'S TOUCH」のサイバーガー

「BAKERY & BURGER JB's TOKYO」のバーガーは食パンを使った“四角いハンバーガー”

「BAKERY & BURGER JB's TOKYO」のバーガーは食パンを使った“四角いハンバーガー”

 1970年代にアメリカからファストフードの理念と共にハンバーガーがやってきてからチェーンストア文化が日本にも定着。グルメバーガーブームを経て、今も続々と新店舗が生まれておりハンバーガーは進化し続けている。カジュアルな価格帯のファストフードと単価1000円超えのグルメバーガー店、そしてその間の価格帯の業態と多岐にわたり、本国の米国人が「日本のバーガーが一番おいしい」と言うまでに成長している。今や国民食といえる「ハンバーガー」だが、これほど日本人の心をつかんだのはなぜなのか。

 ●今年のトレンドは「スマッシュ」「自然派」

 パティ、バンズ、それぞれのバリエーションの広がりは、今年も目立っている。話題性が高いのはスマッシュタイプだ。スマッシュバーガーとは鉄板でパティを焼いているときに、こてで上から押さえつけてパティの厚みを薄くしたバーガーのこと。パティの外側はカリカリと香ばしいのだが、中はジューシーで、表面が硬くコーティングされている分、中の肉汁が閉じ込められている。適度な厚さで食べやすいのだが、満足度はある。

 一方で、自然派バーガー(筆者造語)も人気店が続々出ている。肉の代わりに大豆を使ったパティをはじめ、脂身の少ない赤身牛肉や短角牛を使用したパティ、バンズは野菜が練り込まれているもの、グルテンフリーの米粉や、国産小麦を使用しているケースがある。全体としてはヴィーガン対応、無農薬野菜だけを使用など具材にコンセプトを入れたメニューを出す店は、店舗コンセプトと共に評価につながっている。

 自然派バーガー店の中には、商品だけではなく、店内に観葉植物を多く置いて店舗全体に「癒やし系カフェ」「自然派カフェ」のようなイメージを作っている店もある。

 ●チキンバーガーはハンバーガーなのか

 韓国国内で店舗数1位の1421店舗(2024年2月時点)を構えるバーガーチェーン「MOM’S TOUCH(マムズタッチ)」が4月、東京の渋谷にオープンした。マムズタッチはチキンバーガーの専門店で、4月中は予約制だが、2週間では計1万3000人が予約したという。

 揚げたチキンは外側がパリパリと香ばしく中はジューシーで、ソースに韓国のコチュジャンを使用した商品もあり、韓国カラーも感じられて米国発のハンバーガーとは一線を画す。しかし、中身はパティではなくチキンの唐揚げだ。これも「ハンバーガー」なのだろうか。

 ケンタッキー・フライド・チキンの揚げたチキンをバンズで挟んだ商品の「チキンフィレサンド」は、12年続いたその名前を、22年に「チキンフィレバーガー」に変更している。やはりサンドよりバーガーのほうが親和性が高いと考えたからだろう。

 そのほか、変わりどころとして、パティをバンズではなくトーストした食パンで挟んだバーガー店、東京の代々木「BAKERY&BURGER JB’s TOKYO」もある。やはり「ハンバーグサンド」ではなく「バーガー」として販売している。

 ●日本人がハンバーガーを好む理由~和食にその由来が?~

 日本人は、バーガーが好きらしい。サンドイッチもホットドッグもファンは多いが、やはり話題性と店舗ブランド力でいえば、バーガーに軍配が上がる。では、日本人にとってバーガーとサンドイッチとの違いは何なのだろうか。

 以前、具材をたっぷり入れたサンドイッチや、フルーツと生クリームが入ったフルーツサンドがトレンドになった。両者には共通点がある。いずれも具材があふれんばかりの見栄えと食べ応えのあるサンドイッチだ。日本人は、口を大きく開けてかぶりつくことが好きなのかもしれない。

 その背景を歴史からさかのぼって考えてみる。もともと和食では「箸は1寸までしか汚さないのが美しい食べ方」という作法がある。1寸は約3cmほどなのだが、それより大口を開けて食べることは品がないとされ、和食のほとんどが1寸サイズに作られている。

 例えば、刺し身の一切れの大きさや、きんぴらごぼうの長さなども1寸幅といえる。今でこそてんこ盛りの寿司が人気だが、本来は寿司も1寸サイズの小ぶりだった。それは、一口で素早く食べられるようにという配慮でもあった。また、すべての料理が箸でつまんで口に入れるため、しょせんは限度のある分量しか1回に口には入れられない。

 ●口の形状とハンバーガー人気の関係性

 そういった「品のいい食べ方」の文化、習慣を経ている日本人にとって、ハンバーガーは、ある意味その形状そのものが新しいものであり、食を征服するような一種の高揚感をもたせてくれるのだろう。上に積み重ねられるハンバーガーは、見栄えも伴いそそられるものなのかもしれない。

 特に、人間の口は上下にしか広がらないため、口を大きく開き動かして食べることも満足度を高める重要な要素なのだと考えられる。これがバーガーには可能で、上に積み上げられないホットドッグとの大きな違いだと考える。もちろん、肉汁やうまみ、脂という人間が大好きな要素も満足度を高くさせるのだろう。

 ●チェーン店の戦略と現在のバーガー人気

 ハンバーガーは70年代に大手のチェーン店が進出して一気に店舗数を増やしたため、そもそもの市場規模に強みを持っている。体力のある企業が全国展開をしたので、一気に浸透したともいえる。チェーン店から広まったため、相対的効果でオリジナリティーを出す個店も出現する。その流れにおいて、結果としてバリエーションが増えていったともいえそうだ。

 アイデアが出尽くしたように思えるハンバーガーだが、そんなことはなく、今後も新たなタイプが生まれ進化し続けていくのだろう。景気や環境にも臨機応変に対応しながらハンバーガーは変化し続けていける商材なのだ。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 大学兼任講師 小倉朋子)

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