この1品が客を呼ぶ:「ちゃんぷる亭」パパイヤちゃんぷる

2002.09.02 259号 4面

ここ数年、沖縄の音楽や食文化が全国的な盛り上がりを見せている。ことに沖縄の本土復帰30周年にあたる今年は最高潮に達した感がある。そんな流れに乗ってか、今、沖縄料理店が活況を呈している。東京都杉並区の「ちゃんぷる亭」では、沖縄産のパパイヤを使った「パパイヤちゃんぷる」が絶大な人気だとか。はたしていかなる料理なのだろうか。

ここ数年、沖縄文化が全国的なムーブメントを巻き起こしている。オキナワン・ロックと呼ばれる新しいサウンドが音楽界を席巻し、沖縄の代表的な食材であるゴーヤがスーパーで簡単に入手できるようになった。ひところ健康食・長寿食として話題を集めたゴーヤチャンプルーなど、もはや一般家庭でも食卓に上るようになっている。

そんなブームも手伝ってか、今、沖縄料理店が元気だ。杉並区高井戸西二丁目、環状八号線沿いに店を構える「ちゃんぷる亭」もその例にもれない。席数一二と決して広くない店内だが、沖縄民謡のメロディーに乗せて、お客のにぎやかな声は絶えることがない。

「沖縄そば」(七〇〇円)をはじめ、豚のスペアリブが入った「ソーキそば」(九〇〇円)や「ラフテー」(豚の角煮・五五〇円)といった定番メニューを抑え、堂々の一番人気を誇るのが「パパイヤちゃんぷる」(八〇〇円)だ。

皮をむき、ワタを取り除いたパパイヤを千切りにし、多めのごま油とサラダ油を一対一の割合で熱したフライパンで炒める。しんなりしてきたところでポークランチョンミートと油を切ったツナを加え、さっと炒める。塩・コショウで味を調え、香りづけに醤油を少量たらし、最後に青ネギを添えて出来上がり。

「味が想像しにくいせいか、注文するまでにためらう人がいるようです。でもそんな人に限って、一度食べたら病みつきになってしまうらしくて」

そう言って、店主の石橋綾世さんはほほ笑む。

ところで、沖縄料理店に限らず郷土料理を専門に扱う店といえば、その土地の出身者が経営するのが通例だが、石橋さんは生まれも育ちも東京だ。

「一四年前のオープン当時は、沖縄出身の方から奇異な目で見られました。でも少しずつ認められて、今では沖縄出身の方も常連さんになってくれるようになりました」

実はこのパパイヤちゃんぷるも、地元出身の常連客のリクエストによるものだという。

「石垣島出身のお客さんから言われたんです。『まんじゅまい(沖縄でパパイヤのこと)を使ったメニューはないのか』って。あちらではパパイヤはごく身近な食材なんですね。それでそのお客さんと一緒に考えて、ようやく完成したのがこのメニューなんです」

ちゃんぷる亭で使用する食材は、パパイヤやゴーヤはもちろんのこと、ポークランチョンミートも塩も、ほとんどが沖縄産だ。また、食器類もすべて壺屋焼と琉球ガラスを使用する。

「今は忙しくてなかなか行けませんが、それでも年に一度は沖縄に行って食器を買ったり、市場を訪ねて食材の手配をしています。幸い、現地でお世話になった人のつてを頼ったり、常連さんに紹介してもらって、いいものを手に入れることができるんです」

一四年かけてこつこつと築き上げた信頼と人脈が、現在のちゃんぷる亭の繁栄を支えているのだろう。そしてそのネットワークを使って、今後はさらにパパイヤを使ったサラダや漬け物にも挑戦する予定だという。

「沖縄の空と海と人々の心。この三つの美しさを、料理を通じて東京の人に感じとってもらいたいんです」

石橋さんが思い描くちゃんぷる亭の未来は、沖縄の海と空のように広く大きい。

◆「沖縄料理と泡盛の店・ちゃんぷる亭」=東京都杉並区高井戸西二‐八‐三〇、電話03・3247・3862/坪数席数=九坪一二席/営業時間=正午~午後2時30分、6時~11時

◆記者席からのコメント

パパイヤのさわやかな食感と、ポークランチョンミートのジューシーな味わい、そして風味豊かなツナのうまみが、互いのよさを引き出し合っている。パパイヤの繊維が油を吸いやすいからと、多めに使った二種類の油の配分もいい。千切りにしてしっかり炒めたパパイヤは軟らかく、ほんのりした甘みが優しい味に仕上げている。

ほとんどの客が定食(ご飯・スープ付き一二〇〇円)で注文するというだけあって、ご飯によく合う。人にすすめたくなる味とは、こういう料理のことをいうのだろうと実感した。

◆こだわりの食材 パパイヤ

パパイヤちゃんぷるに使用するのは、沖縄産のブルーパパイヤ。週に一度、石橋さん自ら契約交渉を行った市場から空輸する。一個約六〇〇gの大ぶりの実を、一人前あたり三分の一個、惜しげもなく使う。栄養価が高く、消化、強心作用があり、滋養強壮にもよいとされるパパイヤは、長寿の国・沖縄を象徴する食材ともいえる。

「東京でも買えるけど、高いうえに味ももう一つという感じがします。やっぱり地のものを使った方が、いい料理、お客様が納得できる料理ができると思いますね」

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら