新店ウォッチング:オリエンタルダイナー「アジワン」西葛西店

2003.04.07 267号 8面

「街中レストラン」をコンセプトワードとするファミリーレストランの都市型フォーマット「ビルディ」を約八〇店舗展開する(株)ビルディ(すかいらーくグループ)が、昨年12月にアジアをテーマにした全く新しい業態である、オリエンタルダイナー「アジワン」を地下鉄東西線西葛西駅前にオープンした。

店は、駅前ロータリーの一角にあるビルの二階に位置しており、既存のビルディ店を業態転換した店舗であるため、同社の標準型店舗立地での出店ではあるが、あらゆる面でビルディとは異なる新しいスタイルとなっている。

路面から専用階段で上る二階のエントランススペースには香がたかれ、店舗デザインは木質を基調に、籐製のいすや、籐やガラスなどで作られた凝った照明器具を配置したディナーレストラン風の落ち着いた雰囲気だ。客席は、女性一人でも入りやすいというコンセプトを踏まえつつ、幅広い利用動機に対応するため、テーブル席以外に向かい合わせになった大きなカウンター席と大小五つの個室を設け、パーティー需要までを含めたあらゆるシーンに対応する業態として位置づけられている。

店内には観葉植物やアジアンテーストの木彫りの置物などがディスプレーされ、壁面は南国イメージの花が大きく描かれて、ディナー時間帯にはテーブル上に取り皿やはし、おしぼりが置かれるなど、専門店としてのイメージを前面に打ち出している。

料理は、タイやベトナムを中心にしたアジア料理であり、「サイゴン海鮮チヂミ」や「石焼き五目あんかけ焼きそば」「北京ダック」といったアジアのスタンダード料理から、「パエリヤ」やフォアグラを使ったサラダなどまで約五〇品目をそろえる。時間帯や曜日ごとの提供スタイルを明確に打ち出し、ビルディ店では特徴的なドリンクバーやフルーティーバー(アルコール飲料のドリンクバー)をあえて廃止して、夜間の飲料としてはアジア各国のビールや、「プーケットスリング」「アジアンビューティー」といった南国のフルーツを使用したオリジナルカクテル(五五〇円)を提供している。

平日午後3時までのランチタイムには六八〇円からのランチセットメニュー、アイドルタイムとなる2時~5時には、コーヒーのほか、東西のお茶を各四~五種類から選びデザートとセットにした「ティーブレイクセット」(五八〇円)を提供、また土日にはファミリー客の利用を踏まえて、前菜とデザートを組み合わせ一二〇〇円で提供されるホリデーランチを提供するなど、さまざまなシチュエーションでの利用を促すメニュー構成だ。

ディナーメニューは四〇〇円から八〇〇円の料理を中心に、単品での注文というよりも「前菜、主菜、飯・麺、デザート」といった組合わせでお客がチョイスする居酒屋的な注文スタイルを想定している。四人から七、八人で利用できる個室の需要を見込んだ二五〇〇円からのパーティーメニューもあり、メニューブックもFRによくある大きな写真入りのタイプではなく、コーティングされていない縦長の紙製ブックタイプで、各メニューには説明コメントがあり、専門店風のしゃれたデザインにまとめられている。

このような郊外の居住地域を控えた立地でアジワンの新しい試みが受け入れられるならば、今まで低価格のビルディ店では対応できなかった客層、特に若者の溜まり場になることで敬遠されがちだったファミリーや大人の女性にアピールできる、新しいマーケットを見出したことになるといえる。

現に、この店では昼夜ともに、女性同士や小さな子供連れの主婦が多く、三〇〇店舗体制に向けて出店を計画する同社の新しい展開のカギを握る業態となることだろう。

◆店舗データ

オリエンタルダイナー「アジワン」西葛西店(東京都江戸川区西葛西六‐一〇‐一二、MMビル二階)、会社名=(株)ビルディ、開業=二〇〇二年12月、店舗面積=六〇坪、客席数=八五席、営業時間=午前11時~翌午前1時

◆取材者の視点

店を見て、予想していたスタイルとはかなり違った業態であることに正直びっくりした。

ビルディがこれまで狙ってきたのは、大きな住宅地を控えた郊外駅前立地で「日常飲食ニーズ」に対応していく低価格なフォーマットである。この店はビルディ店のリニューアルであるため、もちろん立地はそのままだが、単に業種が洋食からアジアン・エスニックへと変わっただけではなく、価格帯や営業スタイル、店づくりなどの面も含めて対象としているニーズがまったく異なる業態となっている。

店の立地は、数多くの有名チェーンが出店する西葛西駅の周辺でも、比較的目的客を広く集客することが必要とされる一角であるが、そういった意味では、より「非日常外食」マーケットに寄った業態への転換は正しい選択といえるのかも知れない。

しかし、実際に最も気になるのは、既存ビルディ店と価格帯がまったく異なっている点だ。例えば、ディナー時間帯に甘いオリジナルカクテルを一杯注文し、「フォー・ガー」(ベトナムの麺)と「生春巻き」(一本)を食べると、すでに料金はトータルで一五〇〇円以上になってしまう。

果たしてこの価格帯で同じ商圏内の顧客の満足感を獲得することができるのだろうか。確かに個々の商品はそれなりのレベルに達しているが、専門店というには少しばかり平均的な品ぞろえ、アクのない接客と店舗デザインは、目的客を引き付けるには少し物足りないという印象を受ける。実際に、平日夜7時前後の時間帯には、五組ほどのお客しかおらず、個室もまったく利用されていなかった。

店内のあちこちでたかれているインセンス(香)が、かなり強烈に香っていたことが印象に残る店舗であった。

◆筆者紹介 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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