榊真一郎のトレンドピックアップ:夢が叶う街、夢が始まる街“銀座”
香港でレストランを経営する友人が、銀座に店を作った。ポール・シューという男で、香港、上海、ジャカルタなどアジアの各都市に全部で20店舗ほどのレストランを経営する48歳の新進気鋭のレストランオーナーです。
銀座に作った店は「夜上海」。“イエシャンハイ”と読む。すでに香港に2店舗、上海に1店舗ある、海の幸に特徴のある上海料理をメインにした中国料理のダイニングレストランで、「クラシックなのだけれど現代的なアクセントを加えた活き活きした料理」を食べさせてくれる。
銀座に新しく出来た商業ビルの7階というなかなかのロケーションで、130席という規模での挑戦。香港から12名のシェフを呼び、恐らく「現代を活きている中国料理」の最高峰の一つを作ってる。
「玉子の燻製」。しっかり燻蒸されて香ばしい香りがするのだけれど、白身のプリプリと黄身のトロトロが損なわれることなく半熟状態に保たれているという不思議の前菜。
「上海蟹の身と玉子を甲羅に詰めてオーブンで焼き上げたもの」。リッチでクリーミー、ネットリと舌にまとわりついてくる海の旨味が紹興酒をおねだりする。
現代的なアクセントで古典的な中国料理という枠を逸脱してしまっている創作料理なのだが、ワインがマッチするかというと、そうではなく、紹興酒がおいしく感じるような印象が味にある。だから「あくまでとてもおいしい現代的な中国料理だ」ということになるのだろう。
「よくひけた濃厚なダブルコンソメを思わせるフカヒレスープ」「魚と野菜をさっと塩味で炒めた一品」。どれもシンプルなのだが、ちょっとした気のユルミがすべてを台無しにしてしまいそうにデリケートな料理だ。とても良い。
「ネギのヤキソバ」。中国にもアルデンテという考え方があるのだと初めて教わるような料理。シコシコでスルスル喉の奥に入ってくる。
焦げて真っ黒になる寸前まで焼きこまれたネギの香りが香ばしく、これまたとてもシンプルなのだけれど、奥行き深くて食べ飽きない、食事の〆にはピッタリの麺。
そして「マンゴーと湯葉のナポレオン」。これには参りました。ナポレオンのパイの部分を揚げた湯葉で作り上げたもので、「この手があったのか」と膝を叩いて飛び上がる素晴らしさ。
極上のサクサク。口の中ではかなくも消えてゆくホロホロ加減。サッパリとしたクリームとツルツルに香り高いマンゴー。久しぶりにお代わりしたくなるデザートに出合った感じでした。
そして、こうした料理にピッタリの空間、ピッタリのサービス。とても良い店でありました。
ポール・シューなる人物は、かねて「日本に来たくて仕方なかった」という。アジアを代表するさまざまな街に店を作っても、やっぱり本命は日本だった。そして、「どうせ日本に来るなら東京」「それも銀座に店を作らなきゃいけない」という使命感にかられていたのだとか。
「銀座に店を作る」ということは「世界的になる」ということ。「銀座に来る」ということは「そこからニューヨークに行ける」ということでもある。「銀座に来る」ということは「そこからロンドンにも行ける」と思い、一生懸命立地を探し、そしてやっと今、夢が叶ったということである。
夢が叶った今、「彼は何をしているのか」というと、毎日現場に出て、お客様とスタッフの顔を見ることを仕事にしている。見知った友人がやって来ると必ず同じテーブルに座り、同じものを食べ、周囲の空気に目を配る。
僕が呼ばれた日は開店して3日目。レセプションやドライランから数えると1週間目であったのだけれど、その1週間で彼はなんと「100回近い食事をこのレストランでしたんだよ」と言う。「香港に帰ったら医者に叱られるね」と言いながら。
銀座。夢が叶う場所であり夢が始まる場所でもあるんだろう。とてもシアワセな気持ちで店を出た。店から眺める景色も銀座。そして店を出て足を踏み出すその道も銀座の道。僕達の夢は、どこで叶えることが出来るのだろう。僕達にとっての銀座って一体どこなんだろう。そんなことを思ったのでありました。
((株)OGMコンサルティング常務取締役)