パスタ特集:パスタの最新市場動向 南イタリアのパスタがトレンド牽引役に
パスタ市場は、堅実な拡大傾向を示している。従来のパスタ=スパゲティの構図からは既に脱却。詰め物パスタのラビオリ、ショートパスタのペンネなどがポピュラーとなり、メニュー多様化に拍車をかけている。ロングパスタの代表格のスパゲティは、さっぱりソースを使った細麺から濃厚なソースを使った太麺へ、客の嗜好がドラスティックにシフト。パスタ市場は、伝統的なイタリアンの味わいを前面に出したメニューが支配する様相を呈している。日本人にとって、非常になじみ深いメニューの一つであるパスタの市場動向を探った。
パスタ市場を俯瞰(ふかん)すると、漸進的な伸長率を示していることが、まず指摘できよう。パスタの消費量は、根強い拡大傾向を呈している。何故か。パスタを食べる場が増え、食する頻度が上がっていることが、大きな要因として挙げられよう。パスタをメニューに取り入れる店の増加。そして、中食市場と小売市場でのパスタの売上げ増が、パスタ市場全体を継続的に底上げしていると思われる。
業務用に限って市場動向を分析しても、まだまだパスタ消費量の伸びは見込めよう。ただ、パスタ専門店に限らず、さまざまな業態の店がパスタをメニューに取り入れている。ゆえに、オリジナリティーをどのように打ち出していくかが、メニュー構成上で差別化を図る一つの課題となっている。
パスタを食する機会の増加に比例して、パスタという料理が一層なじみ深い料理となっている。結果として、客がパスタに「うるさくなってきている」傾向が顕著だ。パスタそのものの味が重要視される時代になっている。
従来は、パスタそのものの味よりソース・具材のつくり出す味が、パスタ料理の「味」だった。最新の消費者嗜好は、パスタの質が良いか悪いかまでを判断するまでに「進化」を遂げている。パスタ料理の人気を決める基準は、まずパスタそのもののおいしさであり、ソース・具材のおいしさは二の次となっていると言っても過言ではない。
パスタそのもののおいしさを、客はどのように判断しているのか。パスタを最もおいしく食することのできるアルデンテが好まれていることに、答えを見出しえよう。従来、アルデンテの硬さは受け入れられなかった。しかし現在は、アルデンテでなければ好まれないというように、客のパスタへの嗜好は様変わりしている。それほどパスタ本来の味に関して、嗜好のレベルが高くなっていると言えよう。
また、ラビオリ、トルテリーニなどの詰め物パスタ、ペンネに代表されるショートパスタの需要が定着しつつあることも、最新の動向として着目すべきであろう。パスタ=スパゲティであった時代は終わり、非常に多様化したパスタメニューが楽しめる時代に入ったわけだ。ソース、具材も、それぞれのパスタに合わせて「進化」していくと推測される。
ロングパスタの代表格のスパゲティについても、かつて流行した細麺から太麺に嗜好が移行しつつある。1・3~1・4mmといった細麺は、ゆで時間も短く、店にとっても扱いやすい素材だったことは否めない事実だ。しかし、細麺では、アルデンテでサービスしてもすぐにのびてしまい、パスタ本来の味が損なわれてしまう。今、パスタファンが、1・6~1・7mmの太麺を好む傾向にあることは、まぎれもない事実だ。
嗜好の太麺へのシフトに合わせて、好まれるソースにも変化が生じている。細麺には、比較的ライトタイプで薄味のソースを多めに使っていた。しかし太麺では、濃厚な味のソースを少なめに使う傾向に変化しつつある。今後、パスタと同時進行で好まれるソースも変わり、パスタメニュートータルにドラスティックな変化が生じていくと思われる。
冷やしパスタのような新しい食べ方も一般化していくだろう。パスタファンには女性が多い。女性はサラダファンでもある。ゆえにサラダを取り入れたメニュー、つまりパスタサラダの可能性は大きいはずだ。
マカロニサラダが、量販店でも中食専門店でもメニューの中核をなしている。ただ今後は、マカロニ以外のショートパスタを積極的に使ったメニュー開発が必ずや求められよう。ターゲットは、20代にパスタブームを経験している30~40代のいわば主婦層だ。この主婦層は、量販店での購買客の中心を成す層であり、パスタに関しての嗜好のレベルが非常に高い。このような層へのマカロニサラダだけの提供は、潜在可能性をつぶすことと同義だ。
外食に関しても同様のことが言える。パスタに「うるさくなっている」客をひきつける新しいメニュー開発が、新ジャンル開拓の可能性を引き出すことを忘れてはならない。パスタサラダにマッチする新しいソースのニーズも、今後生じてくるだろう。パスタサラダは、息の長いメニューとして、幅広い普及が大いに期待できよう。
一時期流行した和風パスタは、現在では定着した需要を維持してはいるものの、伸びは頭打ち気味となっている。和風アレンジのパスタも、一つのメニュートレンドをつくり出す意味では、市場の努力の現れだった。しかし最新のトレンドは、クラシックな方向、伝統的なイタリアンパスタへと向かっていることを示している。すなわち、パスタ、ソース、そしてチーズの吟味・厳選が売れ行きを左右する大きなポイントとなろう。嗜好のレベルが上がり、前述したとおりパスタそのものの味を好む客が増加している。必然的に、伝統的なイタリアンパスタが好まれていくのは明らかであろう。
イタリアンパスタといっても、北イタリアと南イタリアとでは大きく料理法が異なる。北イタリアのパスタは、カルボナーラのように比較的ヘビーなパスタだ。北イタリアのパスタを提供するならば、数多くあるイタリアンチーズを厳選し、ふんだんに使う。あるいは、畜肉製品を使ったパスタが求められよう。一方、南イタリアのパスタを提供するならば、トマトソースをベースに新鮮な魚介類、野菜を使ったパスタが求められよう。
今後、どちらかといえば、シーフードを多用する南イタリアのパスタが最新トレンドの牽引役を担うであろうと思われる。同時にソースも、濃厚でありながらも凝り過ぎない、素材の味わいを引き立てるソースが主流となってくるものと思われる。
(FSプランニング・押野見喜八郎)