料理の潮流インタビュー:「ポワソン六三郎」オーナーシェフ・舘野雄二朗氏
道場六三郎氏の愛弟子として、1997年に「ポワソン六三郎」を譲り受け、オーナーシェフとなった舘野雄二朗氏。「道場和食」の魂を受け継ぎながら、独自のアンテナで各地から食材を発掘し、顧客に感動を与える料理を提供し続けている。
‐‐和食をとりまく環境をどのように見ていますか。
舘野 料理も大切ですが、最近問題に感じるのは、料理人の意識です。とくに若い人は、僕らの時代からすれば新人類。あいさつひとつできず、叱ればすぐにやめてしまう。休憩時間や給料のことばかり気にします。彼らをどう教育するかが、いまの大きな課題ですね。
というのも、料理というのは、作る者が愛情を持って、かつ人間関係ができていないと、いくら良い食材や技術があってもおいしいものはできない。サービスも同様です。いまそこが崩れてきている。コストや料理のことばかり優先してしまい、一番大切な人間的なものを忘れていることに危機感を感じます。
僕らのころは、師匠がこれを作ってみようといえば、弟子も自分で食材を探して、みなが一丸となって、おいしいものを作ろうという雰囲気がありました。でもいまの若者は、指示しないと動かない。仕込みに時間のかかるものや難しい料理をやろうとすると嫌な顔をする。
兄弟弟子でも、僕らのころは切磋琢磨し合って、それが絆になりましたが、いまは互いに無関心です。
暴力に賛成するわけではありませんが、昔は師匠に殴られて、人の痛みも分かるようになった。師匠に怒られたことも、あとになればなぜだったか分かる。休日を返上して辛抱したことは、忍耐力として財産になる時がきます。
ただ昔のような封建的なやり方では、彼らを教育できない。彼らと同じ目線に立つこと。僕は掃除も皿洗いも彼らと一緒にやります。カラオケにも誘って、一緒に若者の歌を歌う。すると、自分たちの仲間として認めてくれ、気持ちが通じるようになってきました。また、毎月の料理の献立を決めるときも、試食会で意見を聞き、みなが一丸となっておいしい料理を作ろうというムードを盛り上げています。
なぜこんなに、若者に気を遣わなきゃいけないかと思うこともありますよ。でも最終的に経営者として、みんなの気持ちをひとつにまとめることが、店の利益にもつながっていくのです。
‐‐ご自身のこれからの展望は。
舘野 僕はこれからも、道場の親父の料理を継承していきたいと思っています。僕は一度「ろくさん亭」を離れて、7年間老舗の料理屋で修業をしていたことがあるんです。そこは創作とは無縁の正統派。料理の技法ひとつとってもエビ芋を何時間もかけて煮る。一方道場の親父は、高圧釜で20分。しかも味はそう変わらない。ショックでしたよ。でも道場は「必ずそういう時代が来る」と予言した。世の中の流れが変わっても、いつも前に出て仕事をしている。
いま日本料理にも創作の波が来て、ワインに合う料理やフォアグラを使うなど、次々と新しいものを取り入れざるを得ない状況になりました。でも道場の親父は、20年前から「和魂洋材」をテーマに、世界中の食材を使って、和を表現してきた。
あえて言わせていただくなら、いまの創作和食とは「魂」が違う。創作ではなく「道場和食」。むろんおいしいことは大前提ですが、道場の親父が厨房で果敢に食材に挑戦しながら、「これを見ろ! こんなうまいものができたぞ」と言っている姿は、本当に料理が好きだからあそこまでできる。お客さんもその感動を味わいたいから、来てくださる。
もちろんそれだけでなく、来店していただいたお客さんには、まず店や受付などの第一印象が良い、そして料理もサービスも良く、会計のときに「この価格で」と満足していただけること。
そして、常識にこだわらず、お客さんの食べやすさを優先する。アワビも女性客の口にあわせてカットするなど、自分が客になりきって考える。料理以外にもそんな道場哲学を、僕は継承していくつもりです。
さらに僕自身は、プラス和食の歴史や由来などを、料理とともに情報をお客さんに提供して楽しんでいただきたい。日本料理はどちらかというと料理人が厨房の外に出たがらないですが、僕はもっと積極的にやるべきだと思いますよ。うちはカウンターバーがあって、そこに弟子たちを交代で立たせています。
また、食材もネットを使って、全国から情報を取り寄せています。最近は漁師が新鮮なものを直送してくれる。ともかくどうやったらおいしいものを、手ごろな価格でお客さんにお出しできるか、ブランドも大切ですが、それ以外にもおいしいものはある。それを探す努力をしています。
(文責・阿多笑子)
◆プロフィル
たての・ゆうじろう=1964年栃木県生まれ。高校卒業後、調理師学校に進み、卒業後「銀座ろくさん亭」に弟子入り。途中7年間ほど、新宿や青山の老舗料理屋で修業の後、95年銀座に戻り、板長に。97年には、道場氏から絶大な信頼を得て「ポワソン六三郎」を譲り受け、オーナーシェフに就任。
◆「ポワソン六三郎」(東京都港区赤坂2‐14‐5、プラザミカド1階、電話03・5570・6317)