中華料理特集 NY発、いまうわさのチャイニーズレストラン「Wakiya」
マンハッタンの真ん中にありながら、喧騒(けんそう)の届かない、緑あふれる閑静な区画に脇屋友詞氏の「Wakiya」がオープンしてほぼ1年。“NOBU”こと松久信幸氏やロバート・デ・ニーロ氏などが率いる「ノブ・チーム」が運営している。大皿に盛った中国料理の既成概念から脱却し、1人でもいろいろな料理を楽しめるよう1皿1皿を芸術作品のように繊細に盛り付けるという新スタイルを発信した脇屋氏は、世界のトップレベルのシェフが腕を競い合うニューヨークに乗り込み、ヌーベル・シノワの新しい息を吹き込もうと挑んだ。食体験も豊かで、舌の肥えたニューヨーカーに脇屋氏の料理は、どう受け入れられたのだろう。(外海君子)
ブティックホテルのジャンルを開拓した、かの有名な不動産デベロッパーのイアン・シュレイガー氏の手によって生まれ変わった「グラマシーパーク・ホテル」。改装費に2億ドルを投じたといい、1泊の宿泊料金が600ドルから2600ドルという高級ホテルで、緑の美しいグラマシー・パークを見下ろすロケーションにある。
松久氏を通して脇屋氏を紹介されたシュレイガー氏は、東京へと飛んで脇屋氏の料理を食べ、「かつて食べた中国料理の中で、これほどオリジナルでエキゾチックで画期的な料理に出合ったことがない」と感動したという。
かくして、シュレイガー氏の肝いりでグラマシーパーク・ホテルのメーン・ダイニングとなった「Wakiya」は、「上海の伝統的料理を日本の視点からとらえた新スタイルの中国料理」という旗印で、2007年7月にオープンした。
中学生の時に食べた本格的な中国料理に触発されて、料理の道に入って以来、この道を突き進んできた脇屋氏は、ここニューヨークで「自分の料理が通用するかどうかを試してみたかった」と言う。
レストランはホテルと同じように、落ち着いた深紅と黒を基調にした、どことなくオリエンタル風のエキゾチックなインテリア。母国フランスのみならず、アメリカ、イギリス、イタリア、中国など世界各地でホテルやレストランの設計に携わってきたフランスのデザイン会社「ジレ&ボワシール」がデザインを担当した。バーと個室を併設し、ワインのリストは100ラベルと充実している。
平日は夜だけの営業だが、土・日はブランチのために日中も開いている。
夜のメニューは、10~27ドルの冷菜、8~10ドルのスープ、7~16ドルの点心、12~36ドルの温菜、10~16ドルの麺飯類というアラカルトのほか、65ドル、85ドル、120ドルの「冷菜、温菜、飯または麺、デザート」というコース料理がある。
ウイークエンドのブランチは、アラカルトのほか、35ドルの点心プリフィックス、35ドルもしくは65ドルのコース料理がある。メニューは、季節ごとに変わる。
アメリカWakiyaでも、ヘルシーで新鮮な食材を使って美しく盛り付けられたイマジネーション豊かな料理は健在だ。例えば「清香寶時采」(オハイオ州のオーガニック野菜・凍頂烏龍茶香り蒸し)。これは、オハイオ州にあるオーガニック専門の農場から空輸したミニズッキーニ、芽キャベツ、マイタケ、エリンギ、日野菜、スカッシュ、クリミニマッシュルームなどの新鮮な野菜を海そうめんの上にのせて蒸し、最後に烏龍茶の香りを封じ込めて仕上げた料理だ。それを特製のつけ汁、または塩をつけて食べる。野菜たちが宝石のようにキラキラ光り、香り高い逸品だ。濃い味付けに素材の味が失われがちな中国料理に慣れた人には、目から鱗(うろこ)の一品だろう。
また、「XO醤牛尾」(オックステールのとろとろ煮込み・キノコの香り)は、オックステールをポートベロ、オイスター、クリミニなどの各種マッシュルームのうまみ成分を溶け込ませたソースでじっくり煮込んであり、繊細な風味を楽しむ。
数十ブロック南には、安いことと量の多いことで知られた店が200軒以上もひしめくチャイナタウンがある。大皿に盛ったエネルギッシュな中国料理に慣れているアメリカ人には、小皿に美しく盛り付けた繊細な味の中国料理に戸惑いも見られるようだ。「味があいまい」「値段が高い」という厳しい評価も聞こえてくる。しかし、脇屋氏は「舌は日本もアメリカも変わりはない」と言い切る。アメリカには甲殻類、ソバ、小麦などのアレルギー体質の人がたくさんいることはいるが、そういった違いはともかく、おいしいものは万国共通。「100人の人がいて100人に好いてもらうには年月がかかる。1歩1歩、前向きに頂上に向かって進んでいくことが大事」という。
実際、店を見てみると、一部の評論家の批評はともかく、セレブやビジネスマンが訪れ、バーも混んでいる。
脇屋氏は近々、講談社インターナショナルから英語版の『Haute Chinese Cuisine from the Kitchen of Wakiya』を出版する予定だ。スーパーシェフのデイヴィッド・ブーレイ氏は、序文で、「中国、日本、フランスの要素を融合し、文化的な統合を作り上げている。中国の4000年の料理の未来の可能性を切り開いている」という序文を記している。脇屋氏の世界へのチャレンジはこれからも続く。
◆Wakiya(ワキヤ=Gramercy Park Hotel 2 Lexington Avenue New York NY 10010)開業=2007年7月/営業時間=月~土午後5時45分~11時15分、日午後5時45分~10時15分、土・日ブランチ午前11時30分~午後2時30分/席数=メーンダイニング100席、プライベートルーム30~50席/客単価=約70ドル/1日来客数=200~250人/目標日商=2万~3万ドル
◆脇屋友詞(わきや・ゆうじ)=1958年北海道札幌市生まれ。73年から「山王飯店」「東京ヒルトンホテル」「キャピトル東急ホテル」などを経て、96年「トゥーランドット游仙境」代表取締役総料理長に就任し、横浜と赤坂で店舗を展開。97年「パン パシフィック ホテル 横浜」の中国料理総料理長に就任。2001年赤坂に「Wakiya一笑美茶樓」を開業。07年ニューヨークに「Wakiya Gramercy Park Hotel」を開業。
「伝統と創作」をモットーに、上海料理の技を軸とした洗練された料理で日本の中国料理界をリードするほか、中国茶通としても有名。昨今は積極的にチャリティーイベントに参加し、食を通じた社会貢献に努めている。
○脇屋シェフの愛用食材:マールドンのシーソルト マールドン・クリスタル・ソルト・カンパニー
19世紀にすでに塩の生産を始めていたイギリスの会社、マールドン・クリスタル・ソルト・カンパニーの海塩。ナチュラルかつオーガニックな塩で、マグネシウムやカルシウムなど海水の自然成分を含む。普通の塩には、湿気を吸い取って固まるのを防ぐために添加物を使用しているが、この塩は何ら添加物を含まない。フレーク状になっており、指先でこすり合わせると、パラパラと細かい粒子になるが、形は不ぞろいで、深みのある味がする。また普通の塩と違い、苦みがなくマイルド。
Wakiyaでは、蒸したての清香寶時采に、塩を指先ですりつぶしながらかけて食べることを推奨している。箱入り8.5オンスで6ドル50セント。