クローズアップ現在:麻辣湯の「しびれる」辛さ 常習化させる要因はあるか

2026.08.03 570号 07面
今、最も注目されている「麻辣湯」。「肉めし岡もと」などを運営するトビラダイニングの「東京とろろそば」でも、とろろそば専門店でありながら6月から期間限定で「麻辣湯そば」(1,078円・税込み)を展開

今、最も注目されている「麻辣湯」。「肉めし岡もと」などを運営するトビラダイニングの「東京とろろそば」でも、とろろそば専門店でありながら6月から期間限定で「麻辣湯そば」(1,078円・税込み)を展開

渋谷センター街で行列をつくる四川麻辣湯専門店「星星倶楽部」は7月、神奈川県川崎市の「グランツリー武蔵小杉」に武蔵小杉店をオープンした。同店は60種類以上の具材をラインアップし、「白湯スープ」と「本格薬膳中華スープ」の2種類からスープと辛さを、板春雨、とうもろこし麺、ビーフなどの5種類から麺を選ぶスタイル。写真は「お野菜たっぷり!美容セット」(1,380円・税込み)

渋谷センター街で行列をつくる四川麻辣湯専門店「星星倶楽部」は7月、神奈川県川崎市の「グランツリー武蔵小杉」に武蔵小杉店をオープンした。同店は60種類以上の具材をラインアップし、「白湯スープ」と「本格薬膳中華スープ」の2種類からスープと辛さを、板春雨、とうもろこし麺、ビーフなどの5種類から麺を選ぶスタイル。写真は「お野菜たっぷり!美容セット」(1,380円・税込み)

麻辣湯ブームで専門店が相次いで開業。東京・東十条に7月オープンした「宝宝麻辣湯」1号店は、30種類の具材と3種類のスープを自由に組み合わせる。写真は同店の「麻辣湯」

麻辣湯ブームで専門店が相次いで開業。東京・東十条に7月オープンした「宝宝麻辣湯」1号店は、30種類の具材と3種類のスープを自由に組み合わせる。写真は同店の「麻辣湯」

麻辣湯や四川麻婆豆腐などの花椒によるしびれる辛さは「麻」。カレーや唐辛子などの一般的ならヒリヒリする辛さは「辣」。ワサビの辛さは「香辛」

麻辣湯や四川麻婆豆腐などの花椒によるしびれる辛さは「麻」。カレーや唐辛子などの一般的ならヒリヒリする辛さは「辣」。ワサビの辛さは「香辛」

パンケーキ、火鍋、ギョウザ…と、これまでさまざまな料理のブームがあったが、最近のヒットは麻辣湯だろう。唐辛子とは違う山椒のヒリヒリとした“しびれる”辛さが新鮮に受け止められている。今年は花椒(ホアジャオ)たっぷりの四川風麻婆豆腐専門店も人気だ。暑さを吹き飛ばす意味においても夏の辛い料理は強いといえるが、そうした流れを受けて、このまま「しびれ」ブームは続くのだろうか。

●しびれる「麻」 ヒリヒリする「辣」

麻辣湯の人気が続いており、既に定期的に食べている人も多く、麻辣湯を選ぶ食生活が“常習化”した人は少なくない。定期的に各店舗で食べ歩きをしたり、カップ麺で手軽に食べたり、休日に手作りをする人などさまざまだ。

麻辣湯については以前この連載で書いたことがあるが、物価高騰、健康志向、ストレス社会などさまざまな社会背景の要因が合わさり、人気が出たと考えられる。一般的に「辛い料理は癖になる」といわれているが、それもブームの理由といえるだろうか。

中国では辛味は大きく「麻」「辣」の2通りに分類されている。麻辣湯や四川麻婆豆腐にみられる花椒による舌のしびれる辛さは「麻」といわれ、カレーや唐辛子などの一般的に「辛い料理」と称されるイメージのヒリヒリする辛さは「辣」と称されている。日本特有のワサビの辛さはこのどちらにも属していない。「香辛」という辛さに分類される。すりおろすことで発生する「アリルからし油(アリルイソチオシアネート)」という成分が鼻の粘膜を刺激することで、鼻にツーンと抜けるような揮発性の刺激が生じる辛さのことだ。

●辛味は味覚ではなく快感となる「刺激」

辛味は、実は味覚ではない。「痛覚」になり、痛みと一緒だ。味ではなく「刺激」なのだ。しかし口の中に辛い食べものが入ると、脳が痛みを「おいしい」と勘違いしてしまうらしい。自分の許容範囲を超えた辛さになると味ではなく「痛い」と思うようになるのは、勘違いをしていた脳が本来の「痛み」に気づくためだ。そうした「痛覚」はある種の快感となって脳へ伝達されている。そのため癖になりやすいし習慣になりやすい。これまで辛い料理といえば、唐辛子系の辛さが目立っていた。近年人気の麻辣湯や火鍋、四川麻婆豆腐にみる「麻」の辛さは、日本人には新しい辛さに感じられたのかもしれない。

辛い料理を食べると辛さを感じることで脳が危険だと察知し、それを緩和させようとしてエンドルフィン(脳内麻薬)が分泌される。それが独特な「快感」に変わるとされている。また、麻辣湯や麻婆豆腐などの「しびれ料理」には、しびれの「麻」だけではなく唐辛子系の「辣」の辛味もあるので、両方が合わさって、より脳内麻薬が出やすくなり、「癖」になりやすいのだと思われる。加えてしびれの辛さは香りがよく、鼻や脳への爽快感も感じさせる特徴がある。麻辣湯を食べた後の独特な満足感や爽快感は、そのためなのだろう。

●汎用度が高いしびれ系の辛さ

しびれ系の辛い料理は、そうした料理を出す一部の飲食店でしか提供できないと思われているが、実はそうではないと筆者は感じている。なぜなら、唐辛子系の辛さと比べて、しびれ系の辛さは汎用度が高いはずだからだ。

例えばしびれの定番の花椒は、実はスパイスとして和洋中の壁なくさまざまな料理のトッピングに使える。一つの刺激材料として使用すると、料理の「味変」になるし、飲食店でも新メニューができるだろう。アイスクリームや大福などスイーツにも案外合うのをご存知だろうか。

また、アルコールに入れると一気に刺激的なドリンクに変化する。もちろんそれぞれの相性があるので、すべてのカテゴリーに当てはまるわけではないが、アレンジの自由度は高い。トレンドの取り入れ方はその料理そのもの一択ではなく幅広くとらえていくと、多くの業態の店のメニューも広がりを見せるのではないだろうか。

(食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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