海外通信 外食ビジネスの新発想(104)回転チーズがNYに出現
●新鮮なマリアージュも楽しみ
ロンドン発のチーズ専門レストラン「ピック・アンド・チーズ」が6月、マンハッタン5番街の新フードホール「シェーヴァー・ホール」に米国1号店を開業した。日本の回転寿司に着想を得た回転チーズの店として知られるが、最大の魅力はベルトコンベヤーで料理が流れる演出ではない。クラフトチーズと食材の意外な組み合わせを一皿ごとに提案し、新たな味覚との出合いを楽しませるという点にある。
同店は2019年、ロンドン・コベントガーデンのフードホール「セブン・ダイヤルズ・マーケット」で世界初の回転チーズレストランとして開業した。客席を囲むベルトコンベヤーには、一口サイズのチーズと付け合わせを組み合わせた小皿が次々と流れ、客は気になった皿を自由に手に取る。回転寿司のように少量ずつ多彩な味を試せる気軽さが人気を呼び、観光客だけでなく地元客にも支持されている。
特徴は、シェフにより一皿ごとに完成されたペアリングだ。例えば、コクのある熟成チェダーには甘酸っぱいトマトチャツネを添え、クリーミーなブリーには発酵の酸味が心地よいザワークラウトを合わせる。チーズだけを提供するのではなく、それぞれの個性を最も引き立てる食材とのマリアージュを提案することで、「こんな食べ方があったのか」という驚きを生み出している。皿ごとに異なる組み合わせが流れてくるため、「次はどんな味だろう」とベルトを目で追いながら選ぶ時間そのものが、この店ならではの楽しみだ。気付けば普段なら選ばない種類のチーズにも自然と手が伸びる。体験を通じて新しい味覚を発見させる仕掛けが、同店の最大の特徴といえる。
創業者マシュー・カーバー氏は、英国産チーズの普及活動で知られる人物。ロンドン店では英国各地の小規模生産者が手掛けるチーズを紹介してきたが、ニューヨーク進出にあたっては1年以上かけて米国北東部を複数回訪問。農場やチーズ工房、熟成業者を巡り、地域のチーズ文化を学びながら提供する商品の選定を進めたという。
これまでで最大規模となるニューヨーク店では、ハドソンバレーやバーモント州、ペンシルベニア州など北東部の小規模農家が手掛ける最高のクラフトチーズを中心に採用した。英国で英国産チーズの魅力を発信してきたように、米国産クラフトチーズのショーケースとしての役割を担う。
米国は世界有数のチーズ消費国だが、日常的に食べられるのはチェダーやモッツァレラなど大量生産品が中心で、小規模生産者のチーズに触れる機会は決して多くない。「ピック・アンド・チーズ」は、エンターテインメント性の高い体験を入り口にクラフトチーズの奥深さを伝える新業態として、米国のチーズ市場に新たな需要を生み出す可能性を秘めている。「食べる」だけでなく「発見する」楽しさを提供するビジネスモデルとして、その展開が注目される。(井澤歩)
●店舗情報
「Pick and Cheese」
424 5th Avenue, New York, NY
https://www.pickandcheese.com















