ヒットメニュー開発講座:焼き肉
◆ヒットメニュー開発のポイント
焼き肉の商品の差別化は、肉そのものの品質、味、量、価格といったベーシックな部分が最も重要であることは、いうまでもない。客にとっても、この差は分かりやすく、実質感の差はだれにでも共通の評価要素となるからだ。
中でも、主力商品であるカルビについては、他商品よりもかなり高い原価率をかけてやる必要がある。主力のカルビが安く、お得ということになれば、それがマグネットとなって、客を引き寄せてくれることは確実だ。
ただし、カルビ以外の商品は、比較的ノーマルな価格と内容にして良い。客はカルビばかりを食べるわけではなく、他の商品との併買があるのだから、トータルで原価率を調整できるようにすれば良いわけだ。
肉そのものの差別化に加え、店独自の味や食べさせ方もヒットメニューづくりには欠かせない。ポピュラーになってきた「ネギ焼き」も、長ネギばかりではなく、エシャロットや玉ネギ、ワケギなどを使うのも良いし、ネギを別添えにして、焼き上がった肉にトッピングして食べるスタイルにしても良い。また、長ネギや芽ネギを肉で包んで食べる形も面白い。
肉の部位として注目したいのは、ホルモンと総称される内臓類。静かなブームともいえるウルテやギアラ、ツラミ、アギ、といった変わった部位を品ぞろえすることで、新しい味、初めての食体験を求める客の興味を刺激したい。もちろん、これらの部位も、当たり前のたれでなく、自店独自の個性ある味で食べさせることが大切なのは当然のことといえる。
◆低価格商品開発のポイント
低価格の商品開発では、まず店舗で出る切り出しや端材、付属部位などの活用を考えよう。肉や内臓のセット買いをした時は、端材が相当に安く入手できる計算になるのだから、うまく商品化すれば低価格で売れて、なおかつ利益もとれる商品となる。
焼き肉では使いづらいタン先なども、スライスしてから入念に包丁でたたけば、驚くほど軟らかくなるし、うまみが不足する分は濃厚な味のモミだれを使ってカバーすると良い。これなら一皿二〇〇円を切る価格で売っても十分ペイするはずで、客にとっては強烈な実質感を与える商品になるはずだ。
また、素材そのものが安価な、豚バラ肉を使った「豚ネギ塩カルビ」、鶏もも肉を使った「スタミナ地鶏焼き」といった方向も面白い。普通に自店のたれで食べれば、豚や鶏では味が劣るのは確かだが、それぞれに合った別な味付けとたれ、食べさせ方で提供すれば、安価な分、気軽に注文される一皿となる可能性も高いはずだ。
◆お値打ち商品開発のポイント
お値打ち商品は主力の商品分野でなければ、本当の力は発揮できない。焼き肉店の主力がカルビ系商品である以上、この商品群で強いお値打ち感を作るのがベストだ。
カルビの量目を細分化し、一皿の量目が増えるに従って相対的に安くなる方式の価格設定にしたり、カルビを主力にした盛り合わせメニューの開発をしたいところ。盛り合わせではあくまでもカルビを訴求しやすいように、少なくともカルビの割合は五〇%から六〇%を占めるようにするのがポイント。
一方で、比較的低原価でありながら、意外に高い価格で売られている商品を、原価に見合った価格で商品化することも効果的。人気商品の「石焼きビビンバ」や「冷麺」はその好例で、原価の割には売価が高い。
調理に手間がかかるのは分かるが、オペレーションの工夫次第では効率良く売ることもできるはず。ポーションも若干少なめにすれば、相場の半額でも商品化が可能で、客にとっては注文しなければ損をするといったくらいに強い魅力を訴求できるものとなろう。
◆高価格商品開発のポイント
焼き肉店での高価格商品といえば、銘柄牛の霜降りというのが相場。ただ、高価格商品を注文する客層は、どちらかといえば品質志向で、やや年配の客も多い上、健康にも気を使うタイプがほとんど。
したがって、肉メニューにいくら力を入れても、量は多く食べてはくれないのが現実。このような客層に対しては、高級感のある魚介素材のメニュー開発を考えるのも、一法。
高額メニューならば、活アワビや伊勢エビ、タラバガニ、などが考えられるし、活ハマグリや本ミル貝などの貝類も面白い。あくまでも肉を主力としながらも、はし休め的にこのような高級魚介を分け合って食べるというスタイルなら、年配客や女性客にもアピールできるはず。
また、あえて肉系で勝負するならば、逆にヘビーな肉付きをターゲットとして、超特大の骨付きカルビや、アメリカンスタイルのTボーンカットのステーキ、角切りのヒレ肉などのメニュー開発も一法。グルメタイプのメニューとして、ラムチョップやダチョウなどにチャレンジしてみても面白い。
◆業務用食材活用のポイント
業務用商品として最も便利で、活用したいのは、サイドメニューとしての朝鮮料理的なものの食材。焼き肉だけでなく、一つの食事のコースとしてメニューの構成を考えた時、今の焼き肉店はいきなりメーンディッシュありきで、その前後を補完、充実すべきメニューが不足している。
そこをカバーするのに好適なのが、今注目されている朝鮮家庭料理。人気のチヂミやジョン、チャプチェといった料理はサイドメニューとして絶好だが、意外に手間がかかるのも事実。サイドの位置づけとしては、そんなに手間をかけるわけにはいかないが、そこで活用したいのが業務用の製品。
ジョンやチヂミ用のミックス粉、チャプチェ用合わせ調味料、チゲ用合わせ調味料など、ワンタッチで家庭惣菜が作れる便利なものが多い。また、ごまがゆの素や、トック、といった食材も差別化商品を簡単に作れるものとして活用したい。
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■筆者紹介■ 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう)FSプランニング代表。外食企業、食品メーカーの経営・商品開発コンサルタントとして活躍中。専門である商品政策やメニュー開発指導では第一人者としての定評がある。『外食新メニュー実用百科』(日本食糧新聞社)、『ヒットメニュー全科』(商業界)、『喫茶店経営ハンドブック』(柴田書店)などの著書も多数。
◆ヒットメニュー開発5訓
一、クセになる味を創るべし
一、たれの魔術師になるべし
一、カルビメニューを得意とすべし
一、一芸深化を心掛けるべし
一、損して得とれを目指すべし
○牛サーロインステーキ
●作り方 長ネギとニンニクのみじん切りをボウルに入れ、白ワインとオリーブオイルを加えて混ぜる。牛サーロインをカットして皿に並べ、混ぜた薬味をトッピングする。粒コショウを散らし、ピーマン、パプリカ、生椎茸を添える。
●ポイント 粒コショウはバラコショウを使う。
●応用のヒント 薬味に玉ネギやエシャロットを混ぜるのもよい。
○牛カルビの薬味塩焼き
●作り方 長ネギ、ニラ、ニンニクのみじんをボウルに入れ、塩、花サンショウ、酒、うまみ調味料、コショウを加え混ぜる。牛カルビ肉を皿に並べ、混ぜた薬味をのせる。白ごま油をかける。コチジャン、酢、スープ、砂糖を混ぜ、器に盛った大根おろしにかける。パセリを添える。
●ポイント ニンニクは多すぎないように注意。
●応用のヒント 薬味は肉にからめてもよい。
○カラフルユッケ
●作り方 牛クラシタ肉の薄切りをたたく。醤油、砂糖、ニンニク、花サンショウ、コショウを混ぜる。皿にセルクルをおき、牛肉を入れて形を整える。キュウリ、リンゴ、万能ネギをカットしてのせる。卵黄をのせる。コチジャン、酒、砂糖、ショウガの絞り汁を混ぜ、皿に流す。
●ポイント 牛肉は脂身のない部分を選ぶ。
●応用のヒント 生ニンニクをのせてもよい。