中国料理に新潮流 “ヌーベル・シノワ”店紹介 「エピセ」

1998.02.16 146号 2面

“ヌーベルシノワとワイン”をうたう「epicer」(エピセ)は、初めての客にとって、一瞬何の店かと思わせる店づくり。ビルの地下にあるためか、隠れ家的にひっそりとしたたたずまい。店内は、中国料理店特有の赤とか黄色、黒をいっさい使わず、クリーム系の中間色でまとめられたシックな雰囲気。テーブルセッティングもワイングラスを置くなど、いかにも洋風。

「伝統的、本格的中国料理は専門店に行けばよい。この伝統的なものに、何かをプラスした新しい中国料理をやってみよう」(佐藤浩二店主)と出店したのが昨年9月。系列店の旬菜とワイン「彩季」オープンを追うこと二年後のことだ。

旬にこだわり、素材の味を生かしたフレンチ「彩季」のコンセプトは「エピセ」にも引き継がれ、「感動と楽しみを与える」新しい中国料理、“ヌーベルシノワとワインの店”としてスタートした。

料理人を志して以来、いつかは自分の店を持ちたいと意欲に燃える後藤力也料理長。

「特別ヌーベル・シノワという言葉にこだわってはいません。ただ、今までの中国料理が伝統の上にあぐらをかいているのではという疑問をもっていた。伝統は大事にするが、これに創意工夫した自分の味をつけていきたい」

料理についてはすべてをまかされ、「今まで吸収したものを自分なりに出している」。

こうした自由な発想から作られる新しい中国料理は、

「彩季」と同じく素材の味を生かし、旬を演出するため「豊富に出回る食材を利用し、できるだけフレッシュなものを使う」。

かつては中国料理といえば、フレッシュなものが入手できないと缶詰製品で代替され、また、使う食材も決まったものであったが、「和・洋・中にこだわらず、また、片栗粉でとめた料理から素材を生かしたものにしている」。

フグ、白子、牛タン、フォアグラなど中国料理では珍しい食材を大胆に使い、新鮮な野菜も、業者との密接なコミュニケーションにより、市場で安く入手できるものや品薄で入手できないものを都合してもらい、メニューにメリハリをつけると同時に、コスト低減にもつなげている。「八百屋さんは、月一回は食べにきている」とか。

調味料にも新しい試みを図る。「いろいろな店を回ったので度胸がつきました」。四川料理ではよく使う酢をバルサミコ酢に替えたり、フレッシュなトマトを使ったソースなど「創作の幅がどんどん広がっていきます」。

「料理の邪魔にならず、楽しんでもらう」ワインは、看板にもうたっているだけに開店当初は、八〇アイテムであったが、管理の問題もあり、現在は約六〇アイテムに抑えている。

種類は二ヵ月ごとに内容の検討を行う。フランス産一辺倒だったものが、最近はイタリア、アメリカ、スペイン、チリと幅広くそろえるようになった。

健康に良いという言葉がしばしばテーブルから聞こえるというが、八割は赤で占められる。「客の要望に沿って出したり、料理の傾向に合わせてすすめています」(小島マネジャー)。

「今、ワインに凝っています。少し舌に残しながら料理との相性を探っていくんです」という料理長自身は、ブルゴーニュの酸味と香りが好みという。

ヌーベル・シノワとはどんなものか。後藤流は、一〇〇のうち九八を伝統の中国料理をふまえ、エスプリとして「感動と楽しみを与える皿」を一皿ずつサービスする。今までにない提供の仕方は、ワインをともに食べた後、「料理がおいしかった、楽しいひとときだった」と好評を得、確実にファンにしている。

◆ヌーベルシノワとワイン「epicer」(エピセ)/東京都千代田区紀尾井町三-一紀尾井町パークサイド永谷地下一階、電話03・5276・8117/開業・平成9年9月/坪数席数・一八坪二六席/営業時間・正午~午後3時、5時30分~11時、日曜休、祝祭日はディナーのみ/客単価・ランチ三五〇〇円、ディナー一万三〇〇〇円/一日来店客数・平均二〇人弱/月商・目標八〇〇万円/客層・ランチは二〇~四〇代の主婦、OLが約八〇%、ディナーは三〇~四〇代の接待客、カップル/原価率・三〇%弱/従業員数・厨房三人、ホール三人

◆料理長・後藤力也氏=昭和41年、横浜市出身。三二歳。両親とも働いていたため家族で出掛けて食事をする機会が少なかったこと、また、幼いころからおいしいものへのあこがれが人一倍強かったことから、ついに自らが料理を作る世界に入ってしまう。

振り出しは、「ホテル・ザ・エルシー」でのフレンチ。料理うんぬんより現場の厳しさを学ぶ。以後、いつの日かの独立を目指し「四川楼」「北京飯店」「桃正飯店」「コンチネンタルホテル」などで中国料理を修業後、現在に至る。

◆おまかせコース

■「三〓盆」(前菜三品盛り合わせ)

「又焼肉」は、醤油ベースで焼き、ソースは海鮮醤、芝麻醤、〓油をベースにし、つけあわせをクレソン、エシャロットなどで。

「海〓皮」は、フレンチマスタードベースでクラゲと黄韮を和え、付け合わせにマーシュ、プチトマト。仕上げに紅油ソースで「エピセ」と書き、粉サンショウを振る。

「美味鯛魚」は、ラッキョウ、大葉、ミョウガをみじんにし、タイで巻き、ソースは、中国醤油、粒マスタード、ワサビなどで。

■「緑珀炒明蝦」(大正エビとギンナンのバジルソース炒め)

白果、蘭花、蚕豆、明蝦球をバジルソースで炒める。

■「脆皮茶鴨」(合鴨ジャスミンスモーク、湯葉包み揚げ)

合鴨ロースを一昼夜ジャスミン茶に漬けておき、塩抜きして一~二時間干す。豆油皮四層に蝦仁、鴨絲をはさみ、酥炸の衣で揚げ千層餅で巻いて食す。

■「豆鼓河豚」(フグと大豆のチリソースかけ)

フグは七~八分蒸す。ソースは大豆を豆板醤に漬けて置いたものを粗いみじんにし、大豆油で蒜、姜、葱のみじんとともに揚げ、塩、砂糖などでチリソースを作る。もう一つのソースは、フルーツトマトでフレッシュソースを作りフグの横に。

■「香醋牛舌」(牛舌やわらか煮ステーキ風)

牛舌を三時間煮込み、粉をつけオーブンで焼く。ソースはエシャロットと蒜肉の香り油でオイスターソースベースにバルサミコ酢などを入れ、煮詰める。冬筍のチップ、香り茸、サヤインゲンを油通しし添える。

■「竹笙魚翅」

キヌガサ茸にカニ棒を詰め、ホタテムースを白菜で巻く。魚翅は、下味をつけ、スープで蒸す。チンゲン菜は湯通しし、干貝ソースをかけ、サンショウを振る。

■「陳皮鰻魚」(活ウナギの陳皮ソースとライス)

ウナギを油で揚げる。醤油、砂糖などを煮詰めた陳皮汁を作る。白飯にカボスで下味をつけ、シュルクルで抜き、陳皮汁でからめたウナギをのせる。

■「杏仁豆腐」

生クリーム、ゼラチン、寒天などで豆腐を作る。ソースは、杏仁をすり鉢ですり、コンデンスミルクを牛乳で割り、豆腐にかける。

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