これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(15) いつまでも儲からない仕組み

1998.09.07 160号 26面

ダイエー外食グループに、居酒屋があるのをご存知だろうか。「りきしゃまん」という、東京都心部だけに二十数店舗展開しているサラリーマン居酒屋である。この、りきしゃまんに特徴的なのは、メニューが安いことである。まさにダイエーらしく、低価格メニューのオンパレードである。

ところが、安いのはめちゃくちゃ安いが、あまりおいしくないのである。と同時に、メニューの数が少なく十分に満足できない居酒屋なのである。それよりもっと悪いのは、ローコスト経営のために従業員がほとんどいないのである。いや正確に言うと、まずかったし、メニュー数が無かったし、従業員がいなかったのである。

現在これは大幅に改善され、良い方向に向いているのである。何故そうなったのか。平成8年春に、あるコンサルタントがダイエー外食グループの診断を某研究所から依頼され、診断途中から「このりきしゃまんのメニューはおかしい」と言い出し、そのレポートが外食グループの幹部に提出されたのがきっかけであるようだ。

もともとチェーンストアのメニュー政策は、商品構成グラフというものから出来ている。それは、メニューをまず価格から考えていくものである。りきしゃまんの以前のメニューをグラフ化したのでご覧いただきたい(図1参照)。

このグラフを見ると、フードメニューが五八〇円から一八〇円という狭い範囲に集中している。低い価格帯に売れ筋を集中して、その他の高価格帯のメニューはカットする。こうすると、(1)手軽な居酒屋として業態が明確になり(2)メニュー選択がしやすく(3)その価格イメージが強烈にお客さまに焼付くからだという。それは本当だろうか。

一言で言えば、お客さまはそんなことを思っちゃいないということである。まず、本日の予算(お財布の中身)というものをお客さまは意識してお店を選択している。それが「業態」なのだといえばそうかもしれない。

しかし、一皿一皿が安いだけのフードメニューで、本当にお客さまは満足しているのだろうか。それ以上に、五八〇円から一八〇円の中でどんなメニューがつくれるというのだろうか。鶏の唐揚げはできるだろうが、マグロの刺身ができるだろうか。

商品開発が大切だなんていっても、常識というものがある。はるか赤道直下でとれたマグロを、どんな安値で買えばそれができるのか。“お値打ちの実現”だなんて、チェーンストアの関係者が簡単に言っているが、それが本当に出来ているのか。

この価格から入るやり方を徹底すればするほど、貧弱な原材料で貧弱なメニューしか出来ていないのが現実である。その結果は、安いから繁盛してるが、儲からないから人がいない、材料が悪くメニューがまずい。こうしたチェーン居酒屋のいつまでも儲からない仕組みが、手ごろな価格帯だけにかかわって商品作りすることにあるのである。

この手の居酒屋の客単価は、おおよそ二五〇〇円から二八〇〇円である。であるなら、お客さまは腹いっぱい食べて、腹いっぱい飲みたいと思っているだろうか。答えは全く「NO」である。その証拠に、全国至る所にあるコンビニエンスストアは“安い”だろうか。決して安くないではないか。近いから、便利だから、大体そろっているから買いに行くのである。それが当たり前なのである。

お客さまの選択基準は、もう既に価格の安さだけでは無い。二八〇〇円で、ちょっとおいしいメニューをつまみに、ほんの一杯やりたいだけなのである。とすれば、前記の商品構成グラフは全くの的外れである。だから、りきしゃまんのメニューは、今は図2のようになっており、売上げ、利益ともに向上しているようである。

「つぼ八」にしても「村さ来」にしても、もういい加減この価格から入る発想をやめ、本当においしい居酒屋メニューづくりにまい進すべきなのだ。チェーン理論はすでに時代遅れであり、そのドグマから既に解放されねばならない時が今到来している。

(仮面ライター)

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