新店ウォッチング ベーカリーレストラン「シェフズ・ガーデン」
FR(ファミリーレストラン)御三家の中でも、最もシステマティックな展開を進める「すかいらーく」が、去る6月に久々の新業態レストランを出店した。
新業態とはいっても、既に全国で八〇店舗ほどの展開を進めている「スカイラーク・ガーデンズ」をベーカリーレストランとして展開したのが、今回ご紹介する「シェフズ・ガーデン」である。
この店は、わが国の本格的SC(ショッピングセンター)の老舗のひとつである、玉川高島屋SCが新しく「別館」として開業した「ガーデンアイランド」内へ出店されたもの。
このガーデンアイランド館は、高島屋SC本館からはかなり離れた場所に位置している。かつて本格的スポーツクラブの走りとして評判になった瀬田のスポーツ施設と、国道二四六号線を挟んでちょうど向かい側であり、本館とは一五分間隔で往復するシャトルバスで結ばれている。
日本人好みのしゃれた内装
売場は主に園芸、アウトドア、雑貨、ペット関連などで構成され、全館を統一するのは「ナチュラル、アウトドア、オーガニック」といった、いまトレンドのコンセプトである。
また、施設の敷地は急な傾斜地となっているため、建物は駐車場を含めて地下三階~地上二階の五層に分かれているが、実質上はすべて地上階となる。「シェフズ・ガーデン」はその最上階に位置する格好だ。
店の内装はエッチングを施したガラスや鏡が多用され、テーブルトップや壁面などの基調色にはライラック系の薄紫色が使用されている。また、イスのレザー部分はすべて黒で統一するなど、洋風な内装でありながら、どことなく日本人に落ち着きを感じさせるデザインに仕上がっている。
食器などはすべてガーデンズ業態と同じものが使用され、メニューも大半はガーデンズと同じ内容であるが、例えば通常の日替わりランチのほかに一五〇〇円のランチコースが二品用意され、これには店内で焼き上げるパンが食べ放題でサービスされるなど、ベーカリー機能を生かしたコース料理を中心に組み立てられている。
パンはみな一口サイズで、クロワッサンのほか、ゴマやクルミ、チーズなどさまざまな風味のものがあり、どれも軟らかく食べやすい。
そつのない店舗デザイン、破綻のないオペレーション、つぼを得た商品構成と価格帯、どれをとっても文句のつけようがない老舗の貫禄を見せつけた午後の店内は、狙い通り若い主婦層などで埋まっていた。
◆ベーカリーレストラン「シェフズ・ガーデン」((株)すかいらーく、東京都世田谷区瀬田二‐三二‐一四、玉川高島屋SC新館ガーデンアイランド内、Tel03・5491・5671)、開業=一九九八年6月7日、店舗面積=一五〇坪、営業時間=午前10時~午後10時(年中無休)
取材者の視点
「はやりのベーカリーレストランは、ウチがやればこんなものです」という広報の声が聞こえてきそうである。
細かい点で言えば、できればパンは温かい状態で出して欲しいとか、従業員の対応にもう少しスピードと活気が欲しいとか、さらなる要求は可能だが、ともかくも、この価格帯で、これだけの満足度を提供できる飲食店が果たしてどれだけあるだろうか。
チェーンレストランの中でも、すかいらーくの最大の強みは、店舗スタンダードの最低ラインがキッチリと守られているということだろう。飛び抜けて優れた店はない代わりに、最低限のスタンダード以下の店も限りなく少ない。
思えば、二五年ほど前にFR各社が洋食レストラン業界に登場して以来、賛否両論はありながらも、FRは常に洋食レストラン全体の標準の底上げに貢献してきたといっても過言ではない。
お客は、時代とともにFRを基準にして、洋食レストラン全体を評価してきたのだ。昨今の洋食FR低迷にあたって「お客が飽きた」という分析をしばしば見かけるが、そうではない。お客が成長したのだ。今の若い世代は「ガスト」以下の洋食店を、知らないのである。
現在、和食の復権といわれ、新興チェーンの多くが和食業態で健闘しているが、言い換えれば、それは和食の世界が、顧客満足度からいってまだまだ低レベルにあるからとも言えるだろう。
この「シェフズ・ガーデン」が提供する外食環境が物足りなければ、あとは、より人的依存度の高い本格的なレストランに行くしかない。そう感じさせることのすごさを、独立店の経営者たちは真剣に感じ取っているだろうか。
◆筆者紹介◆商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけた後、SCの企画業務などを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。