だから素敵! あの人のヘルシートーク:俳優・塩谷瞬さん
日本中が涙した「半落ち」の原作・監督コンビ(横山秀夫/佐々部清)が再び贈る「出口のない海」。歌舞伎の市川海老蔵さんが映画デビューすることでも、注目されている。テーマは戦争と野球。その両面で主人公の女房役的役柄を演じた塩谷瞬さんに、2ヵ月にも及んだロケ現場の様子をじっくり話してもらった。
‐浜辺のキャッチボールのシーンが秀逸です。
うれしいです。この役を受けるかどうか、当初「野球」がひっかかり悩みました。映画の重要なテーマとして一つは戦争、もう一つは青春時代の投影として野球があって。この役は野球が好きな人、ずっとやってきた人じゃないとダメかなと思ったけれど、監督が「それは僕らがなんとかするから」と。
撮影前に1ヵ月、ロケの中で1ヵ月、野球の知識を増やしたり、感覚を身につけたりを役作りとしてやりました。スタッフのみなさん、みんな野球好きなんですよ。毎日毎日相手をしてもらって、それで「伊藤」になれた。あ~、野球は楽しいなと思えたし。生まれて初めて坊主頭にもして。監督が佐々部さんで、この作品じゃなかったら、あそこまで髪を切ることはなかったと思います。
佐々部スタイルという監督の撮り方がすごい。1日1シーン、時間の余裕のある中で撮る。カメラの横で、監督さんがまずジッと観る。スタッフさんも一直線になって役者のリハーサルを観て、それからあれはこうだとか芝居の解釈をして、足りないところをつけたしていく。全員でです。
だから撮り始めたら、1発OKすらありました。長々と過酷な現場というより集中して1本撮って、あとはスタッフ、共演者みんなで野球やったりサッカーやったり。ホント、青春って感じの現場というか、男子校の合宿みたいで。海老蔵さんともいつも一緒に風呂入りながら話したり、それが役の距離感になっていったんじゃないかな。それぞれの役はもちろんありますが、そういう意味で僕らのドキュメンタリーでもある気がします。
‐1945年の若者たちの日常も感じられました。
夕方ごとのキャッチボールは、1945年夏の彼らも、そうやって普通に生活しているということを切り取ったシーンです。そこをどう見せるか。脚本を読んだ時からイメージしてきました。「魔球完成」の場面でOKになったテイクは、実は海老蔵さんがちょっとコントロールミスして、僕も取りきれなくてポロっと外れて。画面からフレームアウト、「悪い~」「いや大丈夫です」、あれ、アドリブです。普通だったら撮り直しなのに、監督が自由にやらせてくれて、結局これが採用された。確かに自然にリアルに、僕らのいつもの人間模様みたいなものまで撮れていて。
本来の仕事は、他の4人は特攻隊員で僕だけが整備士です。彼らの思いを受け止めて、綺麗に出発してもらう。彼らが「出る」時に、僕は顔を抜かれ、「伊藤」という役所が出る。人に対しての思いやりのかけ方というか、こいつがどういうことを考えて生きているのか、ずっと考えながら演ってました。
出撃した海老蔵さん演じる並木少尉が、志を果たせず帰ってきた場面。伊藤はそこで笑顔を見せ、思い切り殴られます。あのシーンは…。僕も正直ほっとしていました。伊藤は気を抜いたわけじゃない。特攻隊員と整備士の違い。エイヤって名誉を遂げてきてほしい気持ちと、やはり好きな人には生きていてほしい気持ち…自分の中でうやむやにしていた部分を、並木少尉に見透かされた。「何を腹の力抜いてるんだ!」みたいなものが、すごい勢いで来た。
人と人のつながりって、距離を長くしたり短くしてみたり、いろいろありますよね。日常生活では普通、無難に過ごすことが多いけど、海老蔵さんはもっと来い! もっと来い! とあおってくる。それで違ったときはパツーンと切ってくれる。そんな僕らの関係が芝居の中でも凝縮され、生きた。思い出に残るシーンです。
◆プロフィル
しおや・しゅん 1982年、石川県生まれ。テレビ「忍者戦隊ハリケンジャー」のハリケンレッド役で注目を集める。「Dr.コトー診療所」「奥様は魔女」など話題のドラマに出演。2005年映画「パッチギ!」で第29回日本アカデミー賞新人賞を受賞。
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けっこう健康マニアです(笑)。今回も役柄上体重を10kg増やすなど、仕事で身体作りをしなくてはいけないこともあって、食事は気をつけます。本で読むより、船木誠勝さんら、肉体改造のスペシャリストの実体験を参考にします。人が経験した言葉で聞くと自分の身にしみいる。そういう事実があったのかと。
●塩谷さんの食日記(1)
ロケ現場の下関はふぐの本場。おいしかったですね。それから野菜鍋。コリアンタウンの焼き肉屋さんで毎日食べていました。キャベツ・もやし・ピーマンなどの素朴な野菜とモツ、味噌しか入れず、野菜の水分だけで鍋にします。土が良いせいなのか、野菜が甘くて驚きました。
●塩谷さんの食日記(2)
バランスよく食べるように心がけています。肉・魚・大豆のタンパク質を多くとる。家では冷蔵庫に鶏のささみや胸肉を何個か入れといて、お腹がすいたら自分でゆでてポン酢で食べる。現場移動中、空腹を感じた時も豆乳やハム。ある程度、時間をおきながらタンパク質を吸収するようにしています。