だから素敵! あの人のヘルシートーク:日本麺類業団体連合会会長・鵜飼良平さん

2002.09.10 85号 4面

ポリフェノール、ルチン、食物繊維が豊富でヘルシー食材の筆頭に上げられる「そば」。食を語る席ではいつも誰かが必ずテーマに上げる、そんな文化色濃い存在でもある。この5月にそば屋さんの組合、(社)日本麺類業団体連合会会長に就任した上野「藪そば」三代目当主、鵜飼良平さんに、なぜそばは日本人の気持ちにこうして深く入り込んでいるのか、そのあたりを聞いた。

日本人は長生き、長寿国ナンバーワンということで、いま日本の食生活は世界中から注目されています。いろいろな食材や料理があるけれど、そばもその一つ。各国のいろんな民族の方がそばをどんどん食べるようになりました。ニューヨークにもそば屋さんは多いし、最近では私どもの支店もシドニーに出店することになりました。もちろん、健康性が好まれてのことです。ヨーロッパには昔から、クレープなどのそば文化がありましたけどね。そうです、あれは本来そば粉なんですよ。

活性酸素対策ができるポリフェノール、ルチンが豊富、繊維質だから胃腸の働きを促進するし、昔からいわれているように血圧を下げる効果もある。いま流行の「血液サラサラ」につながります。健康食であるとともに美容食でもある。新陳代謝が良くなれば排出物がキチンと身体の外に出て、女性はもっときれいになる。男は健康になる。いいことづくめの食材です。

そばをもっとヘルシーに食べる方法ですか。好みによるけれど、そばそのものが本当に大好きならば、「そばがき」もいいですよ。団子にすれば、そばそのものをたくさん食べられます。それから「そば湯」。湯の中にそばのいい成分が溶け込んでいます。気をつけてほしいのは、打つ時に打ち粉をつけているそば屋でないそば湯はダメです。これだといい成分がくっつかないから、そば湯もおいしくない。

そばはね、ホント不思議なんですよ。同じ粉で同じ条件で、水回しをして、のして切るじゃないですか。でも同じように出来上がることは一度もない。作るたびに違う。「ああ、これはうまくいったな」と、切ってる時に感じるのは正直、一日に一回あるかないか。例えていえば、絵かきさんが風景画なり人物画を書いても、同じ物は描けないという、あれと同じことではないかと。微妙なんですね。そばは他の食材と比べても、うんちくが多くて深いといわれるけれど、こういうことからでしょうね。だからみんな夢中になる。満足がいかないからです。これでいいということがないから。

同じ人が打ってもそうなのだから、手(打ち手)が変われば全く違う物になる。うちの若い者でも誰が打ったかは触れば、すぐに分かります。寿司屋さんでも同じマグロなのに、握り手で味が違うでしょ。シャリの握り具合とか、手のぬくもりとか、つまり手のオーラなんでしょう。

打ち手が健康で気分がおおらかでないとダメ。イヤイヤやってたり二日酔いで打ったりしたら、そばがいうことを聞いてくれない。打つ時の所作も大事です。面打ちに向かってそばを打つ、仕事をするよっていう時には服装からして支度を整えなくては結果としていいものはできない。自分の気持ちがそこに行かないから。

父親からは「そばを一二の目で見ろ」と教わりました。二つの眼球と一〇の指先を目にして、目と同じような感覚で状況を知れと。そうやって少しずつ、完成に近づけていくんだな。

そばに限らず、ホンモノを追求して「あの店は、あの人は素晴らしい」と、老舗としてお客さまに認められるには何十年もかかります。最近はそば打ちがブームで、そば打ちができるからそば屋になりたいという方も多いけれど、それはね。そばというのはシンプルな食べ物だから、ごまかしが利かないんですよ。

老舗の味を守っていく、同じ味を通していくためには、常にその時代の研鑽をしていかなくてはならないんです。食材を変えていかなくては保てない。昔の物とはしょうゆも、塩も砂糖もみりんもみんな変わってきていますから。

初代、二代目、そして三代目の私、皆、違うしょうゆを使っています。二代目の父親が変えてきたのも、多分同じ所にぶつかったんだと思います。私がこの問題にぶつかったのは三〇年前です。どうしたらいいのか本を読んだりして調べて考えてみた。興味を持ったのはしょうゆのルーツです。西の方にどんどんいくんですよ。朝鮮半島・シルクロード・中国のチベットまでいく。それが戻ってきて中国の雲南省・日本の九州に入り、四国に来て小豆島。その間に中身も随分変わってきています。発祥の中国では岩塩から始まり、朝鮮半島に来て私たちの知るしょうゆに近い物になる。それでも魚醤ですけどね。日本に来て穀物を使うのですが、私が注目したのは小豆島です。てんびんの片方に石を重りとして載っけて、片方の布に挟んだもろみを搾っていく。上から押してはダメ、下から圧力をかければ無理なく搾り上げられると知りました。トヨみたいなのを伝って樽に流れていくそのしょうゆをなめてみてビックリしたんです、そのうまさに。それがいま使っているマルキンのしょうゆです。出会いですね。

(社)日本麺類業団体連合会は関東には会員が多いのだけど、西の方には少ないんです。もっともっと全国という規模で、地域に育ったおそば屋さんに日麺連の事業としてニュースを流していきたい。それがそこに集まってきている人にも伝わっていく。そうして日本のそば文化を伝えて、そばをもっと身近に感じていただけたら。

今月、北京で「日麺連日中蕎麦貿易四〇周年記念交流大会」を開催します。四〇年前、そばが不作で需給がどうにも立ちゆかなくなった時、アメリカ・カナダ・ブラジル・コロンビアなど会員みんなで手分けして輸入を取りつけてきたことがありました。その中の一つに中国もあった。当時は栽培量が少なくて、「譲ってくれ」というのを中国側もビックリしたようです。まだ国交回復前の話です。それでも一番近い中国から運ぶのが商品の品質を保つ上で、一番良かった。どんどん作ってくれるようになり、いまでは日本のそばの消費量の六割を中国が生産してくれています。今回はそうした歴史に「おかげさまです。ありがとう」をいう会なんですよ。

国連の要請で六年くらい前から、ミャンマーで麻薬のもとになるケシ畑をなくし、代わりにそば畑を作ろうという運動も展開しています。そばの実は日本に持ってきて、使っているんです。

生産も消費もそばはいま、立派なグローバル食材です。そこにはたくさんの文化があります。そんな話も、日麺連を通して発信していきたいと思っていますよ。

◆プロフィル

うかい・りょうへい 昭和12年生まれ。昭和46年から、明治25年創業の上野「藪そば」三代目当主。今年5月から(社)日本麺類業団体連合会会長、全国麺類生活衛生同業組合連合会理事長。東京都麺類協同組合理事長、東京都麺類生活衛生同業組合理事長、日清食品フーディアムセミナー講師。「手打ちそば・手打ちうどん」の講習会を全国各地で開催し、指導を行っている。麺類業界においても、後継者の指導や業界の発展に力を注いでいる。

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