食べ物漫遊:流感にお茶のうがい

1999.03.10 42号 13面

“流感にはお茶でうがいを”と、最近テレビや雑誌などでお茶の効能が取り上げられている。

しかし、“風邪にお茶のうがい”などということは、何も昨日、今日いわれ始めたことではなく、大昔からの伝承である。私も十数年前、某氏のクッキングスクールで「風邪の予防にはお茶のうがいを」と話したところ、会終了後、八〇歳くらいの品の良い老婦人が控え室に訪ねてこられ「実は私が子供の頃、祖母がお茶でうがいをすると風邪をひかないよ、といつも言っておりましたが、本当にそうだったんですね。私も最初は半信半疑でしたが、年寄りのいうことですからと、この歳まで外出から帰るとお茶でうがいをしておりましたが、おかげさまで大きな風邪をひいたことがありません」と感に堪えたように話された。なるほど昔の人は科学的にお茶の効能を知っていたのだ、と改めて感心したものである。

実は私も二〇年ほど前に、たいへん親日的な台湾の名士からうかがったもので、それ以来外出から帰ると季節に関係なく中国茶でうがいをしている。そのためかこの老婦人同様、大きな風邪をひいたことがない。何でもお茶に含まれているカテキンという物質が大きく作用するそうである。これは緑茶でも中国茶でも紅茶でも同じ。その他にも科学的に解明されていない数々の成分が、大きく作用するとのことである。

台湾の名士のお話では昭和の初期、氏が旧制台北中学校の時代、自転車で横転し右足に大ケガをした際、傷口をこじらせ台北の陸軍病院で治療をしたが、傷口が化膿し深く内部にまで及んでいた。抗生物質のない時代、右足の切断をするとの診断を受けたそうである。

わらにでもすがる心地で、その時分まだ清朝時代の漢方医が健在であったので診療を仰いだところ、この漢方医は煎じた烏龍茶で傷口を洗浄し、漢方の練り薬を塗布したそうである。一〇日間の治療で化膿した傷口がふさがり、一カ月で完治した。陸軍病院ではその時代の最先端の医学でもダメだった傷口が、漢方の処置により完治したことに大変驚き、多数の医師が経過を聞きに来た。そして改めて漢方の奥深さに驚嘆したとのことである。

中国最古の薬学書である「神農本草経」という書物に“お茶の葉はあらゆる毒を消す”とあるそうであるから、中国人は本能的にお茶の効能を知っていたようである。

現代では内外の公的機関、民間研究所が競ってお茶の研究に着手し、その研究成果を発表している。その研究成果を見ると「老化防止作用」「脂肪分解作用」「制ガン作用」など数多くの薬効があるということだが、難しいことはさておき、少なくとも副作用のない安全なうがい薬ということであるから、流感が猛威をふるっている今年、大いにお茶でうがいをしていただきたいものである。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら