「120歳まで若さを保つ法」著者・軽部東大先端科学技術センター教授に聞く
「120歳まで若さを保つ法」、何とも驚異的なタイトルの本だ。しかしこれは、メルヘンの世界の話ではまったくない。本書によれば、あと数年で「遺伝子や老化のからくりを科学が白日のもとにさらす時」が訪れ、その時、現代的な不老長寿が現実のものとなるのだという。著者の東京大学先端科学技術センター・軽部征夫教授に聞いた。
この本は、現代の最先端の老化に関する情報を集めて作りました。いまこうしたら元気になるという話がたくさんありますが、あまり理論的でないものも多いです。そうではなく、科学の視点でこの問題をとらえた時、健康に長生きしたいという人にサジェスチョンしたいことがいくつかあるんですね。
一番の要素は、やはり食べることです。免疫力を高くする食べ物を積極的に摂取すること、具体的には高タンパクでかつ栄養バランスのとれたものです。タンパク質は抗体をつくる。これらが外から入ってくる病原体を全部ブロックしたり食べてしまったりする。タンパク質はリサイクルされるんですが、それでも三分の一くらいは尿酸として出ていってしまうので、毎日八〇グラムはアミノ酸バランスのいいタンパク質を取らなくてはいけません。
これを実践するには、偏りのない家庭の食事が一番いい。実際に日本人の死因の一番であるガンの発病率は、単身赴任者の方が高いという統計もあるくらいです。
食べるもの以外で一番大きな要因は、ストレスです。いくら体内に抗体ができてもストレスがあると免疫力がガクッと下がってしまう。精神が弱っている時はものすごく病気が発病しやすいんです。老夫婦ご一緒だったのに、奥さんに先立たれてしまったらご主人の方も後を追うように亡くなる例。これなども「これからどうしたらいいのか」という強烈なストレスがかかった結果です。
あとは運動。活性酸素の問題がありますから、いまはジョギングはお勧めできません。歩くのが何よりですね。普通の人は一日一万歩、糖尿の気のある人はもう五〇〇〇歩。
次に休養。毎日の睡眠に関しては、疲れたからでなくて、ある時間がきたらぱっと寝てしまう習慣をつける。また、一週間に少なくとも一日は何もしない休みをとる。ちょっとした休暇がとれるなら、海より山の方が断然いい。樹木が発する匂い、フィトンチットには、殺菌力や精神をリラックスさせるなど、さまざまな薬効があります。
この四つを守れば、私は基本的に人間は一二〇歳まで生きることができると提唱しているんです。
こんな本を出して、「早く死んじゃったら笑われるぞ」とみんなに言われます。頑張らなきゃならないですね(笑)。でも一番大事なのは、自分は健康でありたいという意識です。それがあってこそ、食べ物や飲み物に気をつける、生活全般を見つめるということになってくる。いま問題の病気はほとんど生活習慣病ですから、これさえ改めれば非常に健康でいられるわけです。
長生きしたいという意志自体も身体を活性化させる。脳の中にある生き甲斐を感じる部分を刺激すると身体にその指令が行き届き、ホルモンのバランスが良くなったりする。心というのは脳にあるとわれわれは考えているんですが、それにしても不思議なものですよね。逆に、私には医者の友だちも多いですが、その誰もが「生きるという気持ちのなくなった患者は救いようがない」と断言します。どんなに医療が進もうともね。本人にその意志がなくては、長寿を達成させることはできないんです。
また、一病息災といいますが、一度大病した人はそれを教訓にします。無理すると病気になると知っているので、セーブしていく。それは大変いいことです。一二〇歳まで生きる、寿命を全うするということは、ある意味で体力を温存するということ。
現在、一〇〇歳を超える長寿の人の統計をとると、病気になってから亡くなるまでの間が二週間くらいで、非常に短いんです。身体全体の細胞が完全に寿命を遂げて、いわゆる老衰で亡くなる。キッカケは風邪でも、そういうことです。水銀電池型と私は呼んでいますが、人間の死に方として理想ではないでしょうか。若い頃から病気を繰り返し、さらに最後に寝たきりの時間を増やしても仕方ない。実際、こうなっていかないと、六五歳以上の人が四人に一人となる二〇一五年には、社会保険システム自体がつぶれてしまうでしょう。
私の専門分野では、いま、人の遺伝子の並び方解析が進んでいます。「ヒトノゲノム」というんですが、要するにあと三~四年で人体の設計図が分かるようになる。その後のポストゲノム時代になると、あらゆる医療が変わってくるでしょう。
オギャーと子供が生まれたら血液を一滴取って遺伝子を登録する。そこには一生のヘルスケア情報があるんです。内科の先生は、その人の病気予防のアドバイスが主たる仕事になるでしょう。例えば「あなたは三〇~四〇歳代にかけて呼吸系の疾患にかかる可能性があるので、こういうふうに気をつけて生活して下さい」というように、具体的にガイドするんです。薬、食事、スポーツ、あらゆる方面から的確な指示が出されます。遺伝子情報がカードに登録されればどこに行っても、例えば海外でも共通のガイドを受けることが可能になるでしょう。
そうしたビックリするような医療の時代もそこまで来ています。だから、ね、生活習慣さえ見直せばほとんどの人が誰でも一二〇歳まで若さを保つことができるんですよ。
かるべ・いさお 一九四二年、東京生まれ。七二年、東京工業大学大学院博士課程修了後、七二~七四年に米国イリノイ大学に留学。七四年に東京工業大学資源化学研究所助手、八五年に同教授となる。八八年、東京大学先端科学技術センター教授となり、現在に至る。日本化学会学術賞、東京都功労者表彰(発明研究功労)、フランス政府教育功労章なども受賞している。