注目の「天然抗酸化食品」ゴマを語る 名大農学部・大澤俊彦教授に聞く

1997.03.10 18号 3面

最近注目されているのが「天然抗酸化物質」。主に植物に含まれているもので、非常に抗酸化力に優れ、人体への効果も高いという。天然抗酸化食品の世界的権威である、名古屋大学農学部・大澤俊彦教授に聞いた。

ゾウは最長七〇歳ぐらいまで、クジラは一〇〇歳まで生きるといわれます。それに対し、ネズミの寿命はせいぜい二年くらい。動物が一番長生きした場合に何歳まで生きられるかという寿命(最大潜在寿命)は、身体の大きな動物ほど長いのです。(グラフ参照)

それは酸素消費量に比例します。小さい身体で体温を保つためには、大きな動物よりも余計に酸素を燃やし、エネルギーを作らなければならないのです。

また、女性が男性より長寿なのは、基礎代謝の量が小さいからという説があります。基礎代謝とは、安静にしていても身体が消費するエネルギーの量で、心臓や肺などの臓器が働いたり、体温を維持したりするのに使われます。

男性はその数値が女性より約一〇%高く、呼吸量(酸素消費量)が多いため、酸素毒にさらされる危険も多いと考えられるのです。

では、ゾウより小さいヒトが、それ以上に長生きできるのはなぜか? アメリカの老年研究所のカトラー博士は、脳みそをすり潰し、それを室温に置いておき、どれくらい酸化するかを調べました。

脳は不飽和脂肪酸をたくさん含んでおり、非常に酸化しやすいものなのです。その結果、他の動物に比べ人間の脳は酸化しにくいことが分かりました。長寿な人は、抗酸化的な防御能力に優れているのです。

また、応用生物化学研究所の八木國夫所長らの研究によると、女性ホルモンであるエストロゲンに、抗酸化性が見つかったとのことです。これも女性の長生きの理由の一つかと考えられます。

◆野生種を見直す

樹齢一〇〇〇年以上という古木があるように、植物は人間以上に優れた抗酸化力を備えています。特に熱帯産の作物は、高温で紫外線が強いという非常に強い酸化ストレスのなかで、生命を保ち、さらに無事に発芽させなければなりません。それで同じ豆でも赤インゲン・黒インゲン・タマリンドなど、色素の濃い野生種には、抗酸化効果の高いものが多いのです。

このような酸化ストレスを予防する色素は最近「フレンチパラドックス」として注目を集めた赤ワインにも含まれており、また、トウモロコシの野生種、紫トウモロコシや紫キャベツ、女性に愛好者の多いプルーンにも含まれています。

アメリカインディアンが従来食べていた「ワイルドライス」という真っ黒い作物にも酸化ストレスを非常によく抑える効果が見られました。さらに、アレルギーの原因物質が含まれていないため、コメアレルギーの人の代替食品としても、注目されています。

残念ながら、日本人の私たちにとっては、食べて「おいしい」という感じはしません。しかし私たちは、品種改良によって、こういう能力のないもの、すなわち「えぐ味」のない、味のマイルドな、白米やら白インゲン豆といったものばかりを選んできすぎたのではないでしょうか。

もとの野生のものを食べろという意味ではありません。こういう機能性にもう一度目を向けて、それなりに加工をしながら、食生活に取り入れる重要性を最近非常に感じます。

◆老化防ぐ効果

ごま油は非常に酸化しにくい油です。

これはごまに特有の抗酸化物質が含まれているためと考えた私たちは、研究の結果、天然の抗酸化物質を見つけ、『セサミノール』と名付けました。

若い人の細胞、年取った人の細胞の両方に酸化ストレスを与えると、若い人の細胞はほとんど酸化ストレスの影響を受けません。ところが、五〇歳を過ぎ、六〇、七〇、八〇となるにつれ、加速度的に酸化障害への抵抗力が落ちてくるのが分かります。

ところが、あらかじめセサミノールというごまの抽出物を与えておくと、年をとった人の細胞でも、酸化障害の数値が半分くらいで済みます。つまり、食べ物を補うことで、完全な予防は無理にしても、そのストレスをある程度軽減できるのです。

◆色素の役割は…

最近の私たちの研究では、赤や黒だけでなく黄色の色素も、酸化ストレス予防に重要な役割をもつことが明らかになりました。カレーに欠かせない香辛料であるターメリックの主成分、クルクミンを食べると、腸で吸収される時に強力な抗酸化物質、テトラヒドロクルクミンに変化するというわけです。

また、この物質には強力な大腸ガンの予防効果があることを、国立がんセンターとの共同研究で明らかにできました。今後、さまざまな色素のもつ、新しい機能性が明らかにされることが期待されます。

◆「天寿ガン」って?

最近「天寿ガン」という言葉をよく聞きます。もしわれわれにガンの芽ができたとしても、ガン細胞にはならず、芽のままで抑えることができれば、それでいいのではないでしょうか。

ヒトの最大潜在寿命は一二〇歳。ガンは潜伏期間が二五~四〇年ともいわれています。一番怖いのは若い間に一つの病気が、ほかの病気よりも先に出てしまうこと。ガンだけでなく、動脈硬化もそう、糖尿病もそう。

それらをなるべく先送りして、ヒトとしての天寿を全うするようにもっていく。そのためにはどのような食生活を送るか、というのが非常に重要です。

アメリカでは、食生活からガン予防を考える『デザイナーフーズ計画』が提唱されています。ここでもごまが注目されています。私たちの研究グループも参加して、ごまのもつ抗酸化物質のガン予防機能について、多くの研究成果を発表しています。

五〇〇〇年もの昔から愛されてきたごまの魅力を、あらためて見直す動きが、いま世界中で高まっているのです。

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