百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「アジ」

1996.12.10 15号 14面

今回は、私たち日本人にとって大変なじみの深い、海からとれる食材を二つ。日常の食卓であまりにもポピュラーなアジとイカながら、分析してみると意外にもヘルシー度の高い食べ物という…。

(食品評論家・太木光一)

アジは世界で二五属、約一四〇種を数える。代表的なものはマアジ・ムロアジ・シマアジ・マルアジ・メアジなど。特徴としてどれにも側線に沿ってゼンゴ(ゼイゴ)がみられる。

マアジは温暖性の沿岸を回遊し、日本近海に広く分布している。北海道から九州まで、水深五〇~一〇〇mの海の表層を浮遊し、下層に岩礁や海藻の繁茂するあたりにすみ、小動物を捕食している。

年間を通してとれるが、6~8月にかけて一段と旨くなる。東シナ海での産卵を終ええさをとりながら北上してくるところを漁獲するので、脂ののりが良い。

アジは昭和30年代には五〇万t強もとれ、安くて旨い大衆魚の代表として親しまれてきた。ところが最大の漁場である東シナ海が不漁となり、ピーク時と比べると三分の一に激減し、ここ数年間は二〇万tを割る有り様となった。この結果、一転して高級魚と変わってきた。

アジの特性として、脂肪が少なく味にクセや臭みがないので、どのような料理にも向く。塩焼き・煮つけ・酢の物・から揚げ・フライ・たたき・なますをはじめムニエル・ラビゴートソースがけ・バター焼き・野菜あんかけ・南蛮漬など、広く利用されている。

八〇年代に入って、アジなどに代表される青魚(イワシ・サンマ・サバ)に、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれていることが判明した。

このEPAは血液中の脂肪(コレステロールなど)を少なくし、サラサラにする作用がある。さらに血小板という血液中の成分が、血管の内壁に付着し血管が狭くなるのを防ぐ作用も発見された。これによって心筋梗塞・脳梗塞・動脈硬化症などの予防に良いとされるようになった。

DHAは頭の働きを良くし、記憶学習能力を高める作用がある。人間の脳の脂肪のうち、一〇%がDHAなのである。従って脳のDHAを効率よくふやすには、DHA量の多い魚を食べるのが効率的といえよう。老人の脳血管型の痴呆症の予防にもEPAやDHAの摂取は望まれる。最近のデータで、魚を毎日食べている老人はアルツハイマー型痴呆症で死亡する人が少ないという。

アジの成分をみると一〇〇g当たり生で、カルシウム六五、鉄〇・七、亜鉛六一〇、銅一〇〇、いずれもミリグラムと多く、ビタミンでみればA二〇国際単位、D九五国際単位、〓〇・一二、〓〇・一六、E効力、いずれもミリグラムとなり、栄養的にみてもバランスのとれた魚といえよう。しかもマアジのエキス分には、アラニン・グリシン・グルタミン酸などの遊離アミノ酸が多く含まれ、これらのエキス成分と脂肪が混ざりあうため、独特の旨みがみられる。

人気魚であるが漁獲高は激減し、現在では全世界からアジが輸入され、ドーバー海峡産・ケープタウン産(アフリカ)・ニュージーランド産・チリ産(含むペルー)が食卓を賑わしている。

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