百歳への招待「長寿の源」食材を追う:カキ

1996.07.10 10号 14面

水辺が恋しい季節だ。今回は、そんな水中に育つ生物の中から最も生命力の強いものを2点。うなぎ、かきとも世界中で獲れ、食されているが、極めて日本人好みの食味・食感を持つ食材だ。肉質が柔らかい一方で栄養素は豊富。高齢者世帯の食卓にピッタリのメニューといえる。

(食品評論家・太木光一)

かきの殼が貝塚から発見されたことからも分かるように原始時代から食べられていた。かきの養殖は古代ローマ時代にもみられた。現在では北はノルウェーから南のニュージーランドまで世界各地で養殖が盛んである。

世界的に一〇〇種あまりが知られているが、この代表はマガキで日本では松島湾、的矢湾、広島湾、有明海などが産地として有名。内湾の比較的塩分の少ない波の静かな海が適地だ。殼長は約一〇センチメートル、殼高は六センチメートルほど、身は乳白色で外套膜のヘリは黒い。産卵期は5~8月にかけて。旬は10月から4月なので、俗に英語でRのつく月と言われている。

かきは別名“海のミルク”とも呼ばれ栄養価が高い。数多い貝類の中では最も柔らかい肉質を持ち、消化も良く高齢者向きの食品に適している。蛤、赤貝、鳥貝などはおいしいが堅くて高齢者には噛みきれない。

しかも成分でみると、たんぱく質は他の貝類より少ないが良質である。ビタミンA、B、C、そしてEも多い。さらに微ミネラルと呼ばれる鉄、亜鉛、銅、マンガン、マグネシウム、カルシウム、ダウリンなども豊富である。また特性としてグリコーゲンの蓄積量が非常に多く、一段と美味しくなるシーズンの冬場に入るとこの量も増え、体内に入ってエネルギー源となる。

鉄が不足すると貧血になるばかりでなく、疲れやすく忘れっぽくなる。この点からもかきを積極的にとることをおすすめする。また銅は骨髄でヘモグロビンを作る時に鉄の利用をよくする。腸管からの鉄の吸収を助けるのである。鉄と銅がセットとなって効果を発揮する。取り過ぎても体外に排出されるので心配はない。銅の働きは大きい。

亜鉛は不足すると皮膚障害を起しやすくなる。特に高齢者になるとこの不足が味覚障害の因となり何を食べてもおいしいと感じなくなる。タウリンは血中コレステロールを減らす作用がみられる。血圧を低くし、動脈硬化や脳梗塞も予防する効用がみられる。

かきは食べやすいばかりでなく、ビタミンミネラルなどの宝庫で、しかも美味で消化吸収の面で優れている。百歳元気のための貴重な食品と呼べよう。食べ方としては生食が一番。生食するなら、ふくろとよばれる内臓がふっくらと張りのあるものを選ぶこと。つつくと黒いひだが縮むようなものが良い。酸味とよく合うため、生で酢がきや、生がきにレモン汁をしぼって食べてもよい。このほか、かきフライかきスープ、コキールやチャウダーなども人気が高い。またグラタンやホワイトソース和えもおすすめ。

和風では生食以外にかき鍋、みそ汁、土手鍋、かき飯など、かき料理には多くのファンがみられる。加工品として水煮缶詰、くん製の油漬けなどに。中国料理では調味料として蠣油が有名である。かきは貝類の中で料理のバラエティーが最も広く全世界で愛されている。

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