外食の潮流を読む(71)東京・四谷「スパイスカレー食堂」、開業に秘められた希望の物語

2021.05.03 507号 11面

 主に神奈川・相模原エリアと東京・新宿三丁目エリアに拠点を構える珈琲新鮮館(本社/相模原市南区、代表/沼田慎一郎)は2月、東京・四谷に「スパイスカレー食堂」というスリランカカレーの専門店をオープンした。店舗は6.5坪7席で、オープン以来1日100食限定のカレーが連日完売している。この数量以上を売ると同社が考える営業スタイルが崩れて、クオリティーが下がるということで、このスタイルを守っている。

 同店のカレーは、小麦を一切使用せず、脂もほとんど使わず、また8種類のスパイス(ブラックペッパー、コリアンダー、カイエンペッパー、クミン、シナモン、ターメリック、クローブ、カルダモン)を使用していることから、従来のカレーとは一線を画した特徴がある。また、グルテンフリーであることからも目的来店の可能性が広がる。コメは香り高いタイ産のジャスミンライスを使用。8種類のソースや付け合わせを分けて盛り付けていて、カレーが運ばれてくると従業員が食べ方を説明してくれる。その食べ方は、(1)最初は1種類ずつを味わう(2)次に他のソースや付け合わせを混ぜてみる(3)最後にソース、付け合わせ、ライスをすべて混ぜて食べる、というもの。またテーブルの上に置かれた「香り高い追いスパイス」と「追い辛スパイス」をお好みで加えることにより、顧客は“無限の味変”を楽しむことができる。

 同店の開業に至る経緯を聞いて、同社の努力の糸が見事につながっていると感じた。発端は2018年当時、従業員不足で外国人の社員の雇用を検討、スリランカ人2人を採用した。彼らはとても優秀なことから、同社副社長の佐々木証氏がスリランカを訪れ、現地の人と交流するようになった。

 そこでスリランカ人の雇用を増やそうと「有料職業紹介事業」と「特定技能登録支援機関」のライセンスを取得しようと考えた。佐々木氏が20年2月に人材の送り出し国となるスリランカで活動、朝昼晩とスリランカカレーを食べているうちに体が健康になっていくのを実感した。そして、日本で展開したいと考えた。

 3月に「有料職業紹介事業」と「登録支援機関」のライセンスを取得したが、コロナ禍でこの事業は停滞することになった。4月、各店が不振となっていた中、新宿三丁目の店舗でスパイスカレーの試食を重ねた。9月、スリランカのキロバスゴダ(首都コロンボの近く)に「スパイスカレー食堂LABO」と日本語学校を開設。11月、東京・四谷で店舗用物件を確保した。

 21年1月より、新宿三丁目の店舗で実験販売を行う。2月11日オープン。新宿三丁目で実験販売をしていた当時は、1日10食程度であったが、食事を終えた顧客は皆「絶対にはやる!」という言葉を残していったという。

 コロナ禍が明けると、有料職業紹介事業と特定技能登録支援機関も行うことができるようになり、カレー店の展開も視野に入れることになる。希望に満ちた開業ストーリーだ。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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